架神恭介+辰巳一世『完全教祖マニュアル』

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

新興宗教の教祖として成功するにはどうすればよいかを解説するという、これまでにない切り口の宗教入門書。

教義の作り方や信者の集め方、お金の儲け方、果ては奇跡の起こし方まで何でもござれだ。敬体(ですます調)での話しぶりをそのまま文章にしたような文体で、「この本のとおりにやればどんな人間でも教祖になれます!」などと涼しい顔で語りかけてくるのだから、人を食ったというか、基本的にはジョーク本の類と言えるだろう。しかし、古今東西、宗教がどのように生まれ伝播していったかを思い返すと、以下も嘘ではなく本当の話なのだから、なかなか侮れない。

  • 日本人は無宗教だと言われ宗教への拒否感は強い人が多いが、一方で年末にはクリスマスの誕生日を祝い(キリスト教)、正月は神社に参拝し(神道)、盆はお寺に墓参りに行っているわけで(仏教)、宗教要素には馴染みがあるし、同調圧力に弱いから、信者を取り込んで教祖としてやっていくことは可能
  • 教義は多少変でも、それっぽい顔をしていたら、信者が勝手に解釈してくれる
  • 断食・食物規制・独自の暦や記念日といった(ごく一般の人と違うという意味で)反社会的なルールや義務を課すことで、コミュニティ以外の人との生活が困難になり、その代わりにコミュニティ内の結束が強くなる

日本は事実、昔から宗教に限らず、マルチ商法や自己啓発セミナーといった「信じる者は救われる」的な信者ビジネスが盛んだ。近年では「オンラインサロン」と呼ばれるより現代的な信者ビジネスにアップデートされていることからも、広い意味での信者ビジネスは今後もめちゃくちゃチャンスがあると思う。