高榮郁『トークンエコノミービジネスの教科書』

トークンエコノミービジネスの教科書

トークンエコノミービジネスの教科書

  • 作者:高 榮郁
  • 発売日: 2019/03/20
  • メディア: Kindle版

概要

トークンというのは現在かなり幅広い意味で使われているが、本書での意味を簡単に書くと、法定通貨ではない「代替通貨(代用貨幣)」のことを指す。この概念を、現在話題になっているブロックチェーン技術と組み合わせ、提供者が独自に開発した暗号資産(仮想通貨)によって様々なサービスを提供しようという試みが、本書のタイトルにもなっている「トークンエコノミービジネス」である。

……端的に説明し過ぎた。もう少し噛み砕いて書く。

1) ポイント≒広義のトークン

わたしは本書を読んで、トークンエコノミービジネスの本質は「トークン」そのものを理解することなのだと思った。そしてそれは難しくない。

具体例で説明するが、Amazonには1ポイント=1円の価値を持つ「Amazonポイント」がある。楽天にも1ポイント=1円の価値を持つ「楽天ポイント」がある。使い方は言うまでもないが、Amazonや楽天のサイトで買い物をすると、それに応じてポイントが付与され、次回以降のAmazonや楽天のサイトでの買い物で使えるというものだ。繰り返す、Amazonや楽天の中でだけ使える。*1

この種のポイントキャッシュバックが日本で浸透している最大の理由は、こうしたポイントは利用用途や利用先を限定することができるからである。Amazonが、10,000円の商品を買ってくれた利用者に現金で100円をキャッシュバックしても、当たり前だがその100円を自分たちのサービスで使ってくれるとは限らない。そして他のサービスで100円を使われると、サービス提供者にとっては単なる利益減少に過ぎない。一方、100 Amazonポイントで還元すると、その100ポイントはAmazonのサービスの中でしか使えない。ポイントで還元しても利益減少になるだろうと思うかもしれないが、この仕組みは、自分たちのサービスを再度利用してもらう極めて有効なインセンティブとして作用する。著者の言葉を借りてもう少し格好良く表現すると、これは「閉じた経済圏」を作ることができるというメリットになる。ベタに書くと、損して得取れである。

もうひとつ、LINEにも「LINEポイント」がある。LINEポイントは本書では(多分)サービス名だけ挙がっていて詳細は書かれていなかったが、わたしなりに考えるとLINEポイントとAmazonポイントはビジネスモデルが違う。LINEポイントは商品の購入に応じて付与されるものではなく、LINEスタンプなどの購入のために事前に自らの意思でチャージするプリチャージ型である。プリチャージ型の場合、利用者としては、たくさんのポイントをプリチャージしようとすると大抵ボーナスポイントがつくため、お得に買い物ができるというメリットがある。一方、提供側としては、先ほど書いた「閉じた経済圏」の効果で利用者を繋ぎ止めることができるのに加え、商品やサービスを実際に提供する前に、先んじて対価である現金を受け取れるというメリットがある。利用者が1,000円分のLINEポイントを購入したとして、全てのポイントを一瞬で使うとは限らない。わたしはこの手のプリチャージ型の場合、毎回チャージするのが面倒なのと、ボーナスポイントがつくとお得感があるので、大抵数回分のポイントを予め購入しておく。*2 *3

著者の説明を読んで「なるほど」と思ったのだが、要するに、これらのポイント=広義のトークンと考えれば良いのである。

2) 「閉じた経済圏」を作り出す3つの条件

本書では、トークンによる「閉じた経済圏」を作り出すための条件を3つ定義している。

  1. 価値のある独自トークンが存在する
  2. 特定の行動に対してインセンティブを付与する
  3. トークンの価値を高める施策がある

1は良いとして、ポイントは2と3であろう。これまでポイント≒広義のトークンと書いたが、2は別にショッピングサイトでの商品購入の対価として付与されるだけではない。本書では、政治コミュニティの運営にトークンが使われており、良いコメントに対して他者から良いねのような形でトークンを送り合う事例が紹介されていた。すなわち、ショッピングサイトでは商品購入のインセンティブを高めるためにポイント≒トークンが使われているのだが、政治コミュニティでは、「良い発言」や「質の高い議論」のインセンティブを高めるためにトークンが使われている。そして3は、トークンと現金の変換比率を変動性にすると共にトークンの発行量を制限して希少性を高めたり、ビジネスの利益に連動した株主配当のような形で保有トークンに一定比率で更にトークンが配布されたりする。ビットコインのようなほぼ投機目的のトークンもあるが、コミュニティの運営強化に使われているトークンが多い。

つまり、最初の理解としては単にポイント≒広義のトークンで良いが、現実のトークンエコノミービジネスはもっと多様で複雑なのだ。

3) ポイント×ブロックチェーン

ただ、このポイントサービスを開発・運営していくのは、高い技術力や費用が必要である。セキュリティが脆弱だと、利用者に損害を与えるリスクがあると同時に、サービス提供側にハッキングされて大変な損失を被るリスクもある。一方、ブロックチェーンは技術的に改竄が難しく、また一度トークンを配布すればその後のトークンのやり取りはP2P(ピアツーピア)行われるためサーバ等の運営コストもかからない。堅牢なサービスを安価に運営できる。

要するにポイント×ブロックチェーンが、より精緻なトークンの理解である。

最後に

上ではトークンの考え方にほぼ絞って書いたが、本書はもっと事例がふんだんに書かれている。面白いのでおすすめ。

*1:厳密にはポイントサービス間での「ポイント変換」という話もあることを書きながら思い出したが、本書の主題ではないためここでは割愛する。

*2:本書では「1ポイント=1円で購入することができる『LINEポイント』」と書かれていたが、今、コインチャージしようとすると50ポイント=120円、100ポイント=250円だったので、LINEポイントは1ポイント=1円ではない。

*3:厳密にはAmazonポイントもプリチャージできるのだが、Amazonの商品は現金で購入できるため、わざわざポイントをプリチャージしてAmazonの商品を買う人は少ないような気がする。一方、LINEでLINEスタンプを買うには必ずLINEポイントを使わなければならない。