インキュベ日記

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中原淳+島村公俊+鈴木英智佳+関根雅泰『研修開発入門 「研修転移」の理論と実践』

研修開発入門 「研修転移」の理論と実践

研修開発入門 「研修転移」の理論と実践

研修転移(Transfer of training)とは「研修で学んだことが現場で実践され、成果が生み出されること」であり、つまりは研修の本質とも言えるものである。企業研修は原則として、学習者の自己充足的なものではなく、あくまでもビジネスにプラスのインパクトを創出してもらうために会社が企画・実施することだ。したがって単に学べているだけでなく、それが現場で実践され、現場にポジティブな影響を及ぼす(もっと言うと成果が出る)ことが不可欠だ。しかしながら、これはもう研修の宿命と言うか、ずーっと何十年も研修と現場には断絶があり、世界中で研修転移が成功している企業は稀なのである。

書名にもある通り、この古くて新しい「研修転移」というテーマにフォーカスしたのが本書である。1章は研修転移の理論的枠組や歴史について解説し、2章は日本における研修転移の実践事例、3章は企業の人事担当者などによる座談会である。

2章補足

事例はファンケル・ヤマト運輸・アズビル・三井住友銀行・ニコン・ビームスの6社。以下、6社のポイントをわたしなりに整理するが、ここでのPointはあくまでわたしが感じたことで、著者たちが「すごいですよねー」と言っているPointとは必ずしも一致しないことを申し添えておきたい。著者の狙いを極力尊重して書いたが、わたしの目からは正直「そんなこと最先端と言われても」というのが幾つかあったので、そういったものは外したり、逆に追加したりした。

  1. ファンケルの事例のポイントは「反転学習」である。これは要するに、予習段階で予め研修内容をテキストや映像で学び、授業では演習や、予習段階でわからなかったことの質問回答や意見交換をするというものだ。授業と宿題の位置づけを逆にすることから、反転学習あるいは反転授業と呼ばれる。わたしは子供の頃から、テキストをさっと読めばわかることをだらだら画一的に説明されたり板書されたりするのが本当に嫌だったので、少なくともわたしには合っているのだが、これを企業研修に適用したのがファンケルである。
  2. ヤマト運輸の事例のポイントは「ペア学習」である。新任支店長とメンターのブロック長がペアで研修受講するというアイデアは秀逸で、極めて効果的に研修受講者の上司を巻き込んでいると思う。こうすることで、部下がどのようなことを学んでいるかを上司が明確に理解することができるし、研修内容に反した指導もしづらくなる。
  3. アズビルの事例のポイントは「受講者以外にも研修内容をオープンにシェアしていること」だろうか。「アズビル・アカデミー」という企業内大学を作って多くの社員を受講させているが、アズビル・アカデミーに参加した人間だけが研修内容を知るという話だと、現場の実践のハードルが上がる。それに対して、研修内容を他の人間に周知し、また興味関心に応じてアクセスできるようにすれば、そういった問題も起こりづらくなるので良いと思う。なお著者たちは「テクノロジーを活用して」云々をこの事例のPointとしていたが、ウェブで研修アンケートを取るといった極めて簡便なものであり正直「は?」である。中原淳は基本的に1章の執筆と2章の事例選定までとのことで、取材や執筆は別のライターがやったとのことだが、ちゃんとチェックしてくれてんですかね。
  4. 三井住友銀行の事例のポイントは「インターバル型研修」である。インターバル型研修自体は(良い試みだと思うものの)特別に珍しいものではない。しかし三井住友銀行では、研修→実践→研修……のサンドイッチにおける実践パートにおいて、所属課長への「インタビュー」や「観察」を明確に組み込むという工夫をしている。これはケース1のファンケルと同様、現場上司を研修に強力に巻き込む効果があると思った。
  5. ニコンの事例のポイントは「指導員制度」である。指導員とは要するに新入社員のコーチやメンターのことで、これ自体は珍しいものではない。5~10年目の比較的若手が選ばれるのと、指導員に選ばれることは一人前の証という位置付けです。さらに指導員制度は40年前から続いており、指導員もかつて新人時代に先輩から丁寧に教わっているわけです。この時の感謝を返報する要素もあり、伝統的な企業の強みが残っていると思いました。勤続年数の短い企業では、この「返報性」を構築するのはけっこう難しいと思います。
  6. ビームスの事例のポイント……一応「手厚いフィードバック」ということになるのだろうか。新人は6ヶ月間のOJT研修を受けるそうだfが、その間は月に1回ペースで、本人・トレーナー・店長・エリア統括マネージャー・部課長・人材開発部担当者が一堂に会するフィードバックの場を設定し、これだけの豪華メンバーから有り難いフィードバックを受け、しかも本人や各上司間で評点の違いがあればその場で話し合って認識を合わせるそうだ。良いのか悪いのかw でもOJTに物凄く熱心だということはわかる。