インキュベ日記

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保谷伸『まくむすび』4巻

まくむすび 4 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

まくむすび 4 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

  • 作者:保谷伸
  • 発売日: 2020/04/17
  • メディア: Kindle版
久々に読んだので1巻から4巻までの感想をまとめて書いておきたいのだが、正直、登場人物、特に主人公の設定や言動に大きな違和感がある。

1巻

中学生の頃から表現に取り憑かれていた、まさに私は表現をするために生まれてきた女なんですという人物がいきなり出てきて、彼女が主人公にして演劇部の新入部員・脚本担当である。彼女は元々、自分の描いた漫画の感想でクライマックスシーンの登場人物の表情の意味がわからないと言われて落ち込んで、それからは誰にも漫画を見せたことがない……かなり厳しいトラウマに思える。

それなのに一瞬で持ち直し、先輩を前にして早くも「自分に脚本を書かせろ」の一点張り。

屈託ゼロで、何じゃこりゃと言いたくなる。

2巻

新人で演劇のことをわかっていないから演劇発表会で新人に脚本を任せることはないという流れだったはずが、一夜明けたらいつの間にか主人公が脚本を担当することになるというご都合主義。

肝心の脚本の内容は、公園のベンチでたまたま隣り合ったサラリーマンと女子高生のエピソードなのだが、サラリーマン役がタバコを吸うシーンがあり、その練習シーンが「女子高生の喫煙」として運悪くSNSで拡散してしまう。顧問の教頭先生は、たとえ練習シーンだとしてもこうした問題を起こしたのだから、喫煙シーンはカットした脚本にすべきだと言うが、主人公は何も悪いことはしてないから脚本は変えないと言い張り、その結果、教頭先生は今回の発表会を最後に顧問を辞任すると言い出す。教頭が「わからずや」な感じで描写されているが、これで「自分たちは悪くないから守ってください」とか、あまりに子供じみている。さらには、ここまで自分を押し通しておきながら、リハーサルで急にビビって、自分の脚本がつまんないだのと急に弱音を吐いてガン泣きを始め、先輩たちに慰めてもらって一瞬で回復するという。

1巻に続き、何じゃこりゃと言いたくなる。

2巻のエピソードは、わたしがどうも本作にピンと来ない理由が象徴的に表れている気がするので、ここから少し普遍的な話をするが、作成物における誰かの批判や指摘は、たとえ的を射ないものでも受け入れるべき、というかその方が作成物のレベルが端的に向上するとわたしは思う。

例えば、ビジネスシーンでパワポのスライドを作ったとき、大したものを作れない後輩がピントのズレた指摘・批判をすると、正直腹も立つ。ろくにコミットしていない上司が前後の文脈を無視してああしろこうしろと言った場合も同様だ。でも一方で、自分のパワポが読み手の未熟さや無知も飲み込んで共通理解を生み出せるものなら、そんな指摘は生まれなかったとわたしは思う。

仮に自分が誰かのパワポに対して「ここがわかりづらいですよ」と指摘したとして、「いや、これはわかりやすいんだ」と合弁する同僚がいたら、「いや自分がまさにわかりにくいと思ったんだが?」となるはずで、逆の立場で考えてみるとわかりやすいだろう。

村上春樹は、誰かに指摘をされたら、その指摘が妥当かどうか、またその指摘の通りに修正するかどうかはともかく、必ず何か修正できるところがないかを考え、修正することにしているそうだ。わたしも同意見である。そしてビジネス・創作いずれも同じ話だと思う。何かケチがついたら、内容や理由の如何を問わず、その相手には自分の思うところが思うように伝わっていないということだと考え、対応すると、全体としてハッピーになると思う。

主人公の創作へのこだわりは、はっきり言って未熟だ。喫煙が何かの象徴なのだとして、それが自分たちの軽率な振る舞いで他人から誤解を受けたのなら、喫煙以外の何かを探せば良いのだ。喫煙自体は全く表現の本質ではないと思う。

誤解されたくないので補足するが、未熟なのはもちろん構わない。未熟さが素晴らしいというのも有りだろう。わたしが気に入らないのは、未熟なのに、それがただ素晴らしくて正しいことだという風に描かれているように見えることだ。

3巻

改めて読み返したけど、あまり感想がない。可もなく不可もなしって感じ。

4巻

演劇のワークショップに参加する主人公たち。このワークショップの模様は個人的にけっこう面白かった。けどワークショップ中に、グループの空気を悪くして、そのままトイレに逃げ出して、挙句の果てに他の人に自分が悪いと謝らせるという、素敵コンボ。作者はどうやら、主人公を創作意欲満点の一直線なキャラとして描きたいのだろうが、主人公の魅力に乏しく、どうしても主人公に共感できんのだよな。