中野剛志『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』

『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』の続編。

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著者は現代貨幣理論(MMT)の考えに立脚しているのだが、著者によれば、難解と思われているMMTの要諦は(貨幣について正しい理解をしてさえいれば)シンプルである。

 MMTは、「自国通貨を発行する政府はデフォルトに陥ることはあり得ないから、高インフレにならない限り、財政赤字を拡大しても問題ない」という単純明快な理論です。
 日本は自国通貨(円)を発行し、国債をすべて円建てで発行していますから、デフォルトすることはあり得ません。
 しかも、高インフレどころか、その反対のデフレです。
 したがって、MMTによれば、日本は、何の心配もなく、財政赤字を拡大できるというわけです。

わたしも、財源がどうのとか、財政健全化がどうのというのは、ずっと正しいと思っていた。

だが、著者の言うように、国家の赤字と企業・個人の赤字を一緒にするのは違うような気がしている。

 日本は、巨額の財政赤字を抱えています。GDPに占める政府債務残高は、平成30年度には、ついに240%近くにまで迫っており、主要先進国と比較しても、最悪の水準になっています。
 これは、財政危機にあるギリシャやイタリアよりも、はるかに大きい値です。
 それにもかかわらず、日本は財政破綻に陥っていません。
 これは、なぜなのでしょうか。
 (略)政府は、自国通貨発行権を有するので、自国通貨建て国債が返済不能になることは、理論上あり得ないし、歴史上も例がありません。財政破綻(債務不履行)の事例は、自国通貨建てではない国際に関するものです。
 自国通貨建て国債が返済不能になることはないので、財政赤字の大きさ(対GDP比政府債務残高など)は、財政危機とは関係がありません。
 財政赤字を拡大し続けると、いずれインフレになります。
 そのインフレが過剰になった場合には、その時こそ、歳出削減や増税によって、財政赤字を縮小させる必要があります。
 つまり、財政赤字の大小を判断するための基準は、インフレ率(物価上昇率)なのです。インフレ率が高ければ、財政赤字が大きい。逆にインフレ率がマイナス(デフレ)であれば、財政赤字が足りない。そう判断すべきなのです。
 さて、平成日本は、ずっとデフレでした。ということは、平成日本の財政赤字は大き過ぎたのではなく、小さ過ぎたということです。
 通貨発行権を有する政府は財政破綻に陥りません。ということは、政府は、税によって財源を確保する必要がないということです。
 したがって、税は、財源確保の手段ではありません。物価調整や所得再分配など、経済全体を調整するための手段なのです。

下線部はわたしが引いたものだ。

かなりのマインドチェンジが必要だが、何となく著者やMMT理論の言っていることは、妥当な気がするのである。

補足

 京都大学大学院教授の藤井聡氏、経済評論家の三橋貴明氏、そしてジャーナリストの堤未果氏たちは、「令和の政策ピボット」という運動を始めています。文字通り、平成から令和への転換にあたって、政策の「ピボット」を図ろうというわけです。
 この「令和の政策ピボット」が掲げる経済政策は、基本的に本書のスタンスに非常に近い。

 また、「令和の政策ピボット」が始まるのより少し前に、立命館大学教授の松尾匡氏たちが「薔薇マークキャンペーン」という運動を始めました。この「薔薇マークキャンペーン」が掲げる経済政策もまた、積極財政をはじめとして、本書のスタンスと共通するところが多い。

いずれも今のところ、わたしが全面的に賛同することはない。例えば、令和の政策ピボットの政策は基本的に違和感がなかったのだが、「反グローバリズム」の標語は狭量な外国人差別を誘発しそうなリスクを覚えた。また薔薇マークキャンペーンの労働組合活性化みたいなのもわたしはピンと来ない。けれど、いずれも反緊縮財政を訴えており、一定の関心を持ったのでリンクを張っておく。

reiwapivot.jp
rosemark.jp