角幡唯介『裸の大地 第一部 狩りと漂泊』

『空白の五マイル』『極夜行』『極夜行前』などで知られる探検家による新シリーズ。

incubator.hatenablog.com
incubator.hatenablog.com
incubator.hatenablog.com

著者は哲学的というか観念的というか、ただ冒険をして未踏の地に行く、高い山に登るということでは満足せず、冒険や探検に、もっと本質的で根源的な意味のようなものを求める。それはそうだろう。既に北極点も南極点もエベレストも踏破されている。21世紀において秘境や未踏と呼べる箇所はほとんど存在しないのだ。だから前作と前々作でも「極地」「極夜」という概念を持ち出してきた。そして今度は「漂白」である。目的ありき、ゴールありき、時間制限ありき、踏破ありきの冒険ではなく、漂白そのものを目的とした冒険である。わたしはただの現代人だが、何となくわかるような気がした。もっと探検そのもの、冒険そのものを目的にすると、探検=生活のような形になり、それが漂白というコンセプトなのだと思う。

しかし(詳しくは本書に譲るが)漂白というコンセプトは結構難しいようで、一旦頓挫している。その代わり『極夜行』のときのように予め拠点に食料を事前準備することをせず、現地で食料調達をすることを前提に探検をするというコンセプトで、北極圏を計75日間も、著者と犬で探検している。地味だが、よく生還できたなというぐらいの激しい旅で、『空白の五マイル』や『極夜行』に匹敵する命がけの旅である。そしてこのシリーズは次も続く。これまた詳細は本書に譲るが、犬ぞりだ。こりゃ楽しみだね。