黒木亮『獅子のごとく(下)』

大手邦銀から巨大投資銀行に転じた国際金融マンの姿を描いたビジネス小説。

投資銀行や商社・ヘッジファンドなどにおける数千億円クラスの国際金融の戦いの現場を書かせると、おそらく日本で黒木亮を超える書き手は存在しないだろう。黒木亮自身が元々圧倒的な国際金融マンであるからだ。生半可な取材では絶対にここまで書けないと思う。

本書の主人公は、元々大学ラグビーで日本代表の手前まで行くほどで、体育会系なので勉強らしい勉強はそこまでしたことがなかった。しかし体育会系は文字通り体力があるし、やれと言われたことはガムシャラにやるし、上下関係なども身についているし、この手のネットワークは営業において重要であるため、昔から(特に昔は)大学の部活つながりは大手企業の入社にけっこう有益だったりする。この主人公もその伝手で大手邦銀に入社(正確には銀行なので入行)後、ひたむきに働いて頭角を現す。しかし自営業を営んでいた実家が、他ならぬ自分が勤務する銀行に見捨てられ、倒産し、持ち家なども全て取り上げられるという屈辱を味わう。その結果、勤務先に対して愛着どころか深い恨みのようなものを持ち、アメリカの巨大投資銀行で国際金融マンとしてのキャリアを歩み始めることになる。

本書は、企業名・個人名ともに実名と仮名が双方出てくる。虚実入り交じる感じで、読んでいてなかなか面白い。例えば、三井住之江銀行と仮名にされているが明らかに三井住友銀行だし、ライブドアや楽天は実名、堀江も三木谷も実名で登場する。物凄く大きな規模で戦いが繰り広げられているが、その戦いの個々のエピソードや背景は事実があったりして、読みながら「これは事実なのか?事実ベースのフィクションなのか?完全なフィクションなのか?」と、よくわからなくなってくる。しかしそれが良い。