黒木亮『シルクロードの滑走路』

キルギスタン(キルギス共和国)で繰り広げられる国際金融小説。

今回の主人公は商社で航空機ファイナンスを手がけるのだが、何と言ってもキルギスは発展途上国かつ共産主義国のため、ポリティカル・リスク(政治リスク)が大きなテーマとなっている。キルギスの運輸省に英語のわかる人間がおらず、英国法にも馴染みがない。何よりも、キルギスなどという国に巨額の融資をしようという投資家や、その保険を引き受ける先がない――。西側諸国のビジネス慣行にも不得手で、一度決めたことが後日また蒸し返されたり、サインをした後もゴネたり、ロジックではなく、とにかく「金利を下げてくれ!」と何週間も何ヶ月も交渉したり、なかなかのタフ・ネゴシエーションが描かれている。

黒木亮という作者は、『トップ・レフト』ではロンドンとトルコ、『アジアの隼』ではベトナム、そして本書ではキルギスを舞台としている。これら全ての国でビジネスをした経験があるかどうかはわからないが、単に素人が調べただけでは書けないであろうと思われるディティールも多く、かなりの国際ビジネスの経験があるんだろうなあと感じさせる。面白い書き手である。