柳井正+名和高司+DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部『世界一の企業を目指すならCSVは当然である』

名和高司が柳井正にCSV経営についてインタビューするという建て付けで、良い意味で平易。

ユニクロがグラミン銀行と組んで世界最貧国のひとつであるバングラデシュで事業展開するという話で、これはなかなか興味深かった。CSV経営の細かな話は別に触れられていないが、本質がよくわかる。経済的価値と社会的価値を切り分けることは難しいというか、切り分けている会社はやっぱりイマイチなんだよな。このインタビューを読みながら思い出したのが、山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の一節である。

incubator.hatenablog.com

 ここで、DeNAをはじめとしたネットベンチャーが、コンプガチャやキュレーションメディアといった社会問題を発生させる経緯について、簡単におさらいしてみましょう。多くの方が感じられたことだと思いますが、この二つの事件は、事業内容が全く異なるにもかかわらず、事件に至る経緯は基本的に同じで、整理すれば次のようになります。

  1. まず、シロ=合法とクロ=違法のあいだに横たわるグレーゾーンで荒稼ぎするビジネスモデルを考案する。
  2. そのうち、最初は限りなくシロに近い領域だったのが、利益を追求するうちに限りなくクロに近い領域へドリフトしていく。
  3. やがて、モラル上の問題をマスコミや社会から指摘されると、「叱られたので止めます」と謝罪して事業の修正・更生を図る。

 ここでポイントになるのが、ともに「開始の判断=経済性、廃止の判断=外部からの圧力」という構造になっている点です。つまり、美意識に代表されるような内部的な規範が、全く機能していないんですね。
 事業開始の意思決定にあたっては、「法律で禁止されていない以上、別に問題はないだろう」というのが、彼らの判断基準になっています。

山口周の言う「美意識」というものの定義や役割は多岐に渡るが、少なくとも美意識があれば社会的利益を毀損するようなビジネスはやらないだろう。美意識はCSV経営の前提だというのと、ネットベンチャーとユニクロの違いはここにあるというか。