西尾裕太『下北沢バックヤードストーリー』全3巻

古着屋の店主として働く主人公が、職場恋愛をしていた彼女に出て行かれてしまう。自分に何か欠けているものがあり、彼女がそれに気づいてほしいと思っていることまでは理解できた……けれど、肝心のその「欠けているもの」が何か、どうしてもわからない。主人公は、過去の恋愛や元彼女のことを思い出し、また元彼女たちに実際に会ってみて、その「欠けているもの」を掴もうとする。

なるほど、なかなか読ませるというか、なかなか残酷というか。

フツーに考えて、過去の終わった恋愛を殊更に持ち出して云々するのはどうかと思う。わたしは安易なジェンダー論は嫌いだが、過去の終わった恋愛を殊更に持ち出して云々するのはするのは男性、しかも性根がアレな男性だけだと一般的には言われている。そして作者もそのことを十分にわかっており、ステレオタイプに表現しているのだろう。主人公は善人だけど鈍くて、愚かで、他責で、それが故に相手を傷つけてきた――その意味ではとても罪深い主人公なのだと思う。しかし主人公はその罪に何の悪意もないわけで、それを描写するというのもなかなかに底意地が悪いというかね。

いやー、巧いなぁ。