浅見理都『イチケイのカラス』全4巻

裁判官や書記官にスポットライトを当てて、彼らの物語を紡いでくれていたのが本作である。

しかし裁判官というのは難しい商売だと思う。裁判官に求められるのは公平・公正な判断である。理不尽から依頼人を守る弁護士や、社会悪を立件に繋げる検事と比べて、裁判官は夜の悪や理不尽と日々接していながら自分なりの正義感をぶつけるところが無い(もしくは少ない)ように見える。

裁判官がたまに行う「説諭」はその典型、というか象徴ではないだろうか。そもそも裁判官は量刑を出せば良いはずであり、説諭とは何だろうと考えると実に奥が深い。いわゆる名説諭と呼ばれるものがある一方で、説諭を意図的に行わない裁判官もいると聞く。また、今後AIが量刑判断をするようになれば、説諭はなくなるだろう。それが良いのか悪いのか、にわかに判断はつかない。

もっと言うと、裁判員制度も難しい。色々と議論されたが、一人の国民として、議論が尽くされたという気は全然していない。けど何となく制度が始まって社会に組み込まれ、何となく「ああ裁判員制度だよね」というレベルでは浸透した。でも裁判員制度の意義は全く浸透していないと思う。

裁判官や司法に関わる何となくの疑問は多いのだが、本作はこの手の疑問を漫画として掘り下げてくれている。こういう作品を読むと、フタをしてきた社会正義への思いが体の中から溢れ出してきて困る。主人公の先輩のエピソードとか正直泣いてしまった。ただ、わたしが本作を知った時には、既に全4巻で完結していた。ちょっと勿体なくないですかモーニングさん。メジャー雑誌でありながら、こういうマイナーだけど社会的に意義のある作品をきちんと連載してくれるのが、モーニングやイブニングだと思っていたのだが。作者が100%満足して完結したのならそれでも良いが、そうでないなら、絶対に復活させるべき作品だと思う。