石塚真一『BLUE GIANT EXPLORER』8巻

この巻、いつもより面白いなあ。

本作を読んでいると、主人公に対して素直に凄いと思うと同時に、「何か違うな」って思うことも多い。いや、主人公のダイ・ミヤモト、本当は作者の石塚真一に感じていることなのかもしれないが、いずれにせよそう思うことがある。

主人公は毎日必死に練習して、練習して、練習して、それでステージでも強く、強く、強く、そして長いソロを吹く。それだけである。読み手はその描写に圧倒されるし、この音楽を聴いた人も圧倒されるのだろう。ただ、音楽はそれが全てではない。わたしは「激しい音楽だけではなく静かな音楽も重要だ」といったことを言いたいのではない。ダイの音楽に対する向き合い方はストイックすぎて、演奏する側にも聴く側にも、緊張感しかないのではないか――という話である。

厳密に言うと、わたしは上記に近い感覚をずっと持っていたのだが、あまり上手く言語化できていなかった。

ただ、強く吹くだけが能じゃないだろうとはずっと思っていた。

そんな中、作者も長年そう感じていたのか、はたまた思いつきかよくわからないが、わたしの上記の感覚と全く同じ話が作品に出てきた。

ジャズをやりながらアメリカを移動している主人公と仲間は、ニューオリンズを旅立ち、フロリダ州のマイアミに足を踏み入れる。マイアミは暑くて熱い。ほぼ熱帯の観光地である。人は多く、ジャズは人気だが、それ以上に観光地で、みんな遊びに――というかバカンスに来ている。地元民も観光地やバカンスの雰囲気が好きで住んでいる人だろう。

そんな人たちに、ダイの音楽性が全くフィットしないのである。

そりゃそうだよなーと思う。わたしはマイアミに行ったことはないが、何となくわかる。夏の夜の沖縄で、ひたすらストイックな音楽を聴かされても「はあ?」って思う。もう少し肩の力を抜いた音楽が聴きたいだろう。それと同じである。

今後ダイの音楽はどう変わるのか? すごく気になる。