井沢元彦『井沢元彦の世界宗教講座』

予備校時代に現代文の先生が推薦していた本だが、平易な言葉でコンパクトにまとめて書かれているから読みやすいし、再読にも耐え得る本である。少し古い記述もあるけれど、現在の教科書問題を予見させるような記述もある。

ただ1つ疑問なのは、外国で「自分は無宗教だ」というのは無神論者と思われる可能性があって危険なので、信じていなくても仏教徒と言った方が良い――といった著者の認識である。これはどうなのかなあ? 以前はそうだったのかもしれないが、少なくとも今の状況からすると、的を外しているような気がする。現在は特定の宗教を信じていないからといって、それほど大事にはならないと思うし、むしろ特定の宗教名を挙げることで、それ以外の宗教を信じている人との軋轢(あつれき)が生じてしまうのではないか? そう思ってしまうのは、「アメリカの同時多発テロ」と「アメリカとタリバンの戦争」をリアルタイムで目の当たりにし、ナーバスになっているからなのか?

現在のイスラム問題からも明らかなように、宗教の問題というのは複雑だ。俺は多くを語るほど宗教に対する見識を持っているわけではないが、本書にもあるように「宗教が違えば生き方の原理が異なる」ということと「宗教というものは本来それを信じないものに対して不寛容である」ということは押さえておいた方が良いだろう。「みんなで話し合うことが最も大事なことで、そうすれば必ずうまくいく」という「和の精神」は、世界中で通用するとは限らないのである。