村上龍『マクロ・日本経済からミクロ・あなた自身へ――村上龍Weekly Report』

『だまされないために、わたしは経済を学んだ――村上龍Weekly Report』の続編である。説明を繰り返すならば、JMM(ジャパン・メール・メディア)という、村上龍が主催する金融と経済に関するメールマガジンで書かれた文章を収録した本。

incubator.hatenablog.com

『だまされないために、わたしは経済を学んだ』の感想では、「村上龍Weekly Report」シリーズの概論を述べたので、本書ではより具体的に述べたい。多くの論点が挙げられているが、俺が特に面白いと思ったのが、「日本は」「日本人は」といった言い方は既に無効化し通用しなくなっているのに、マスコミが全てを一括りにして一元的に捉えた報道を行うことで、逆にマスコミは何が問題で何がわからないのかを隠蔽してしまっている、という指摘である。

デフレと不況の親和性が単純に取り沙汰されるが、一方で、実際にはデフレの方が収益も高くなる企業だって多くある。このリストラ時代だからこそ収益を伸ばせる企業や業界も実はある。また、小泉の構造改革は痛みを伴う、いや伴わない、といった議論も変で、正確には構造改革によって致命的な痛みを伴う層と少しの痛みを伴う層と全く(あるいはほとんど)痛みを伴わない層が存在する。地価の下落も、円高や円安も、良い影響を受ける層と痛みを伴う層が存在する。それらはきちんと分けて議論されるべきなのに、「構造改革で日本は良くなるのか」「不況やデフレで日本人の生活はどう変わるのか」と日本のマスコミが一元的に捉えて煽り立てることで、そのシンプルで重要な認識が隠蔽されてしまっている、と村上龍は述べるのだ。

今まで意識したことはなかったが、正しい指摘だと俺は感じた。「あなた」や「あなたの会社」や「あなたの子どもの通う学校」の経済状況や個人の意識が、現在の経済状況や今後の経済の変化でどうなるか、といった視点から論を組み立て直しましょう、そして安易な解決策を求めるのではなく、何がわからないのか、何が問題なのかをきちんと明らかにしてから議論しましょう、という狙いが本書のタイトルには端的に込められている。俺は読むべきシリーズだと思う。必読。

最後に1点だけ、面白いと思った他の箇所を引用しておきたい。

 転職を考えるときに、もっとも大切で重要なことは何でしょうか。幸福な転職の条件とでもいうべきもの、それは、会社の外に信頼できる友人・知人がいるかどうか、ということだそうです。(中略)たまに会う友人は新しい情報源となるのです。したがって、「信頼はしているがたまにしか会わない友人」のネットワークを持っているかどうかが、幸福な転職の条件だというわけです。

 しかし、「弱い紐帯」の友人や知人の必要性は、単に転職だけにとどまらないのではないかとわたしは思います。わたしたちが「外部」に目を向けるために、あるいは「自己訂正力」を磨くために必須のものではないでしょうか。

この視点は、「信頼」について考える際、非常に重要な視点になると思う。