村上龍『だまされないために、わたしは経済を学んだ――村上龍Weekly Report』

俺の村上龍に対する思いは複雑だ。高3の1月に読書を始めて以来、好きになったり大嫌いになったりを繰り返している作家なのである。『コインロッカー・ベイビーズ』『愛と幻想のファシズム』にハマり、SM小説が合わず、『五分後の世界』『ヒュウガ・ウイルス』にハマり、消耗品がナンタラとかいう一連のエッセイに愕然とし、JMMに「おっ」と思ったものの、『イン ザ・ミソスープ』を読んでブチ切れ、サッカーエッセイが面白いなと思い見直したものの、「結局は中田のミーハーやんけ」と惰性で続くサッカーエッセイを見限る――といった具合だ。しかし、本書は非常に面白く読んだ。

本書はJMM(ジャパン・メール・メディア)という、村上龍が主催する金融と経済に関するメールマガジンで書かれた文章を収録した本である。書名は完全なアイキャッチであり、一瞬「またか!」と思うが、村上龍個人に対する偏見や思い込みを捨てて素直に読むと、本書は実に多くの示唆を与えてくれるように思う。

本書は経済学を偉そうに説明した本ではない。小説家や知識人や文化人としてではない「個人」としての村上龍が、経済システムと個人の意識をめぐる本質的な疑問点や論点を発する本である。村上龍が経済を学んでいる途中であることと、単純な経済の問題ではなく「経済と個人の関係」を考察していることが多いことから、その本質的な疑問の多くは、村上龍が答えを言うのではなく、読者が引き受けて考え続けなければならない。その意味で本書は「経済書」というよりもむしろ「自己啓発書」的と言えるかもしれない。

しかし、こうして整理すると、もう村上龍を「小説家」として捉えることは、俺の中では難しくなっている。何しろ村上龍の新しい小説を読もうという気が今これっぽっちも起こらないからだ。しかし本書は非常に面白かったので、JMM関係の本はもう少し読んでみようと思う。必読。