エイドリアン・スライウォツキー『ザ・プロフィット――利益はどのようにして生まれるのか』

戦略企画部門で働くスティーブは、自社の業績落ち込みに悩んでいた。そんなとき「ビジネスで利益が生まれる仕組みを知り尽くした男」デビッドと出会う。そして週1回、毎回1つずつ、全部で23の利益モデルをスティーブはチャオに教わる――といったアウトライン。邦訳が出たときは『ザ・ゴール』に便乗しただけのビジネス小説かと勝手に思っていたが、著者は、ドラッカーやゲイツやウェルチと並んで「ビジネス界で影響力を持つトップ5」に入るほどビッグな人物らしい。

利益モデルの解説については、あえてスティーブ(読者)に謎や課題を投げかけたまま放置しているところがかなり多い。スティーブの思考を追体験して時間をかけて丁寧に取り組まないと、本書を完全に消化することは出来ないだろう。意味のわからないまま置いて行かれた箇所が、俺も細かいところではけっこうあった。安易に「答え」を与えないという点では良心的とも言えるが、そもそもビジネス小説というのは、こうした戦略思考に慣れていない人が手に取るものなのだから、チャオの出した宿題の解説や「なぜスティーブの考え方が間違っているのか」など、もう少し詳しく述べてくれて良かったのではないか? また大企業向けのモデルが多いというか、ベンチャーや中小企業が利用できるモデルは少なかった。ただ、大筋では参考になったし、何度も参照する価値もある本だと思う。

またシチュエーションはほぼチャオ先生とスティーブの授業だけなので、ゴールドラット博士が著した一連のビジネス小説(『ザ・ゴール』『ザ・ゴール2』『チェンジ・ザ・ルール!』)と違い、物語性はあまり強くない。しかし本書は「物語を楽しむこと」が目的ではなくて「物語を通して利益モデルを学ぶこと」が目的なので、むしろ長所かなと思う。スティーブは思いこみが強いらしく、授業で啓発されて自社で新たな取り組みを行おうとするが、意外と失敗し、相変わらず自社は傾き続け、チャオに怒りや落胆の表情を見せつつ現状を報告する――といったところが、唯一、物語的に面白いところだろうか。誠実で知的だが凡庸さも併せ持つスティーブが、失敗や誤解を重ねつつ必死に会社や自分を変えようとするあたりは、ご都合主義的な単なるシンデレラストーリーより、はるかに共感的だ。必読。