滝田誠一郎『人事制度イノベーション』

人事制度イノベーション (講談社現代新書)

人事制度イノベーション (講談社現代新書)

「成果主義だ」「いや、成果主義はダメだ」という不毛な議論が繰り返されて久しいが、最近は少し落ち着いてきたように思う。以前『10年後の人事』という本の感想でも書いたが、結局のところ、何を「成果」と捉えてどのように評価するかが問題であり、成果を評価すること自体は全く間違っていないと思う。プロセス評価も行動評価も、成果の幅を広げるための視点であろう。今さら年功や雰囲気で評価されたらたまったもんじゃない。
本書は、いわゆる「生きるか死ぬか」のサバイバル成果主義ではなく、「会社も個人も幸せな成果主義は可能か?」という視点から「次の一手」となりうる先進的な事例を数多く紹介している。第3章で「ジェネレーション・ギャップ賃金制度」「フリンジ・ベネフィット制度」「マイレージ制度」「報奨ミリオネア制度」「中高年コーチ制度」「社内ダブルワーク制度」「社内人材マーケット制度」が紹介されているが、良くも悪くも目新しい取り組みの紹介にとどまっているようにみえるのは残念だ。
ただ個々の内容を見ると中には面白い制度もある。例えば「フリンジ・ベネフィット制度」は、成果評価は比較的ストレートに給与に反映させ、プロセス評価や行動評価・チャレンジ評価などの成果は給与以外の処遇に反映させる。フリンジ・ベネフィットの例として本書で挙げられた中から、一部を引用してみたい。

◆職務権限関係

  • 役員でなくても役員会に出席することができる。
  • 自分の部下を自分で選任することができる。
  • 新規プロジェクト・新規事業を立ち上げることができる。

◆接待交際費関係

  • ポストに就いていなくても課長並、部長並、役員並の接待交際費が使える。

◆昇級・昇格関係

  • 昇級のための最低滞留年数の短縮。

◆待遇関係

  • 個室の使用を認める。
  • 社用車の使用を認める。

◆勤務関係

  • 有給休暇の追加付与。
  • 勤務地・所属部署・職種・出退勤時間を選ぶことができる。
  • 定年を延長することができる。

◆教育研修・自己啓発関係

  • 資格取得のための社外研修・講習に参加できる。
  • 自由なテーマでの海外視察を認める。

◆各種手当関係

  • 住宅手当を倍増、3倍増する。
  • スーツ代を支給する。

フリンジ・ベネフィットの狙いは、プロセスの評価結果に応じて、社員の自尊心や自己実現願望を満たす特権を与えたり、福利厚生などの特別待遇をすることによる、モチベーションやモラルの向上であろう。取り組み姿勢や行動力を給与以外で報いるという方法が目新しいとは思わないが、その報い方は非常に思い切っている。プロジェクトの立ち上げ権利や部下の選任権・部署や職種の選択権が得られるなら、かなりモチベーションが上がると思う。人事制度は「その会社が社員のことをどう考えているか」というメッセージの表れだから、こういった取り組みを実施している企業は、より良い人材が集まってくるのではないだろうか。