ONE JAPAN『なぜウチの会社は変われないんだ!と悩んだら読む 大企業ハック大全』

ONE JAPANとは、パナソニックやトヨタ自動車など日本を代表する大企業55社に若手・中堅社員3,000人が集うコミュニティとのことである。ONE JAPAN結成から5年、大企業の中で諦めることも染まることも辞めることも拒否し、大企業を中から変えようと奮闘してきた中で培ってきたハックを1冊にまとめたものが本書らしい。

わたしは本書から2つの刺激を受けた。ひとつは、大企業病とは何かという自分なりの気づき。もうひとつは、本書の主題とも言える大企業で働く意識高い系社員の問題意識やアクションを知れたことである。

大企業病とは何か?

ONE JAPANの活動として興味深いのは、まず「なぜウチの会社は変われないんだ!」というもどかしさを解きほぐすため、1,600名への意識調査を踏まえて、大企業病として次の5つを定義していることである。

  1. 内向き・社内至上主義:「ウチの会社、上がOKしないと進まないから」
  2. 縦割り・セクショナリズム:「また責任のなすりつけあいしてるよ」
  3. スピード欠如:「なんでこんなに遅いんだ」
  4. 同質化・新陳代謝不全:「いつになったら自分の番がくるの?」
  5. 挑戦・仮説検証不足:「挑戦しろって言うくせに、新しい提案は否定される……」

わたしはこれを読んで、否応なく、様々なことを考えさせられてしまった。まず、ここに書かれていることに認識齟齬や違和感はない。日本のほぼ全ての大企業は、この病に罹患していると思うし、上記のいくつか、あるいは全てを発症していると思う。大企業病の本質をいい感じで整理してくれていると思った。

そして同時に、こうも思ったのである。

日本のほぼ全ての中小企業も、大企業病と同じような病状に苦しんでいる。

  1. 内向き・社内至上主義:ワンマン経営やオーナー至上主義・家族主義経営の弊害に、ほぼニアリーイコールで置き換えられる。
  2. 縦割り・セクショナリズム:社員が数十名・数百名でも容易に発生し、しかも重症化し得ることをわたしは過去数社の中小・零細企業で嫌というほど味わってきた。
  3. スピード欠如:こちらも同様だ。ボスの命令は早くともリソースがないとか、重鎮やお局様が邪魔をしてボスに上げるルートがないとか、中小・零細企業のボスがそもそもスピード感を持っているとは限らないとか。
  4. 同質化・新陳代謝不全:これも組織の歴史が長ければ大企業と同様に発症している。
  5. 挑戦・仮説検証不足:これに至っては、挑戦という名の単なる無茶なノルマや、無茶なスケジュールに苦しんだ経験を、多くの中小・零細企業の営業やSE・プロジェクト担当者が苦い記とともに思い出すだろう。

上のようなことをつらつらと考えるうちに、わたしの頭も整理されてきた。

大企業病とは大企業特有の病ではない。組織規模の大小を問わず・・・・・・・・・・・、発症の可能性がある。もっと言おう。対策を講じたごく一部の大企業、たまたま優秀なボスが会社全体を統括し得たごく一部の中小・零細企業、まだ組織化や意思決定の階層化が完成していない未熟な組織体だがイケイケなため無症状で済んでいる一部のベンチャー企業を除いた、あらゆる組織があまねく罹患する可能性のある組織病、これこそが大企業病の本質である。

これは本書の前提とは異なる。しかしわたしの中ではしっくり来た答えだ。昔から感じていたモヤモヤを言語化できた気がする。

繰り返すが、著者たちは大企業ならではのハックを中心に整理している。しかしそれでも大企業病が大企業以外にも通底する病である以上、大企業以外の人たちを含む多くの読み手にとって有益なハックがあるだろう。

大企業で働く若手・中堅社員の問題意識やアクション

2点目が本書の主題なのだが、ハックの数が多いので見出しだけ一覧化しておく。

No 第1章 社内の「空気」を吹っ飛ばそう!
内向き・社内至上主義を打破するスキル8
1 「未知」を逆手にとって挑戦のとっかかりをつかむ
「実演販売」でトップにアプローチ
2 まるで本物! 圧倒的クオリティで使い心地まで伝えて企画を通せ!
クオリティドリブン説得
3 どんな提案も、最後まで聞いてもらえなければ始まらない
資料の棘は抜け!
4 「大企業ならではの自信過剰」を突破するための2段構えの大技
井の中の蛙ブレイク
5 共創は、自社の「当たり前」を破ってこそ生まれる!
「別ルート」でイノベーション
6 イノベーションのヒントは、会社が歩んできた歴史の中にこそある
否定しないイノベーション
7 大企業病は自分の中にある。「諦め」を吹き払う仲間との集い方
異端児が空気を作る
8 「社内文化」に染まらないための客観的思考力を養成しよう
社会と個人の直結回路
No 第2章 「サイロ」を軽やかに乗り越えろ!
縦割り・セクショナリズムを越境するスキル11
9 同僚・上司への「お節介」が風通しのよい組織を作る
社内であっても変わらぬホスピタリティ精神
10 「前例のない企画」は、応援者を巻き込んで突破しよう
「叩かれ台なので答えてください」作戦
11 ギブの精神でタテヨコナナメに味方を作りまくれ!
ナカマづくりはナナメから
12 会社を模したチームを作って大局観を手に入れよう!
ミニカンパニー
13 認知が共感を生み、共感が応援者を連れてくる
ゆるゆるSNS発信と、本気の活動発表会
14 面白い人もロールモデルもザクザク見つかる
昼休みでできちゃう面白人材発掘
15 現状維持を決め込む人たちを巻き込む「ゆるい仕掛け」
社内スナック開店!
16 組織横断! キャリア観を広げるための
越境プラットフォームで交流促進
17 視点が異なる関係者間に橋を架ける2つの「越境」技
「お節介チームリビルド」と「トップギア」
18 社内の熱量のギャップを埋める「巻き込み」術
トップと若手のミートアップ
19 「若手有志団体」の看板と熱量をフル活用!
社内コンサルティング
No 第3章 あの手この手で「ワープ」しよう!
スピード欠如を断ち切るスキル8
20 センスのいい人との付き合いが、成功確率もスピードも上げてくれる
トライアングル壁打ち
21 自らのアイデアの勝ちを信じているなら、「勝手に」動け!
プライベートプロトタイピング
22 本質的なパートナーを味方につけて「外堀」を埋めよう
「スイートスポット」でスマート承認
23 「先頭に立たない」という選択肢が、かえってアイデアを成長させる
社内アクセラレーター
24 オープンイノベーションの成功確率をグンと上げる!
ライトモード/本気モード切り替え
25 自分の裁量で使えるリソースを使って悪循環を断ち切る!
休日・自費の最大限活用
26 複雑な社内ルールをかいくぐってスピードアップ!
新会社にポジティブ脱出
27 「なんでも楽しむ」姿勢で失敗を失敗で終わらせない
優先順位は「プライド<プレイ」
No 第4章 「根回し2.0」で社内外に網の目状のつながりを!
同質化・新陳代謝不全を防ぐスキル9
28 イノベーションを担う人材の「量」と「幅」はこうして増やそう
「全員スター化」と「演じ分け」
29 みんなが「1ミリ」動けば、自分もチームも大成長!
リーダーよりも「セカンドペンギン」
30 脇役と主役の演じ分けでチャンスをものにしよう!
俳優になる
31 周りの「助けて! やりたい! 知りたい!」にギブで応える
世話好き人財になろう!
32 「新しいもの」は会社の中にこそ眠っている
「あるもの探し」で原石発見!
33 組織風土に染まった心に新鮮な心を取り戻せ!
新入社員とのペアメンタリング
34 「アルムナイ」の最大成功事例はこの技から生まれた
ボトムから始める社内文化醸成
35 退職者とのつながりが会社の価値を高め、誇りを取り戻す
シャケムナイネットワーク
36 意に沿わない会社の意思決定をひっくり返す2つの戦術
オセロ&デュエル
No 第5章 壁打ち」できる場を作ろう!
挑戦・仮説検証不足を変革するスキル8
37 自分が立ちたい「打席」に立ち続けるために
社内マーケティングの思考法
38 誰も見たことのない「アイデア」に形を与えよ!
ハッカソンで最速!仮説検証
39 最初の一歩のハードルを劇的に下げる
「仮設テント」から始める期間限定チャレンジ
40 大企業特有の文脈の中でイノベーションを生み出す超実践的方法論
社内を動かす「黒船力」「集団力」「斜め力」
41 有志活動こそ、やがて本業の拡大に貢献するカギとなる!
志コネクト
42 無風状態から風を巻き起こすためのアウトプット術
三方よしの「意識調査」
43 「オープンイノベーションごっこ」を脱し真の共創を目指そう
外の「標準」を知り、融合する
44 不確実な世界で「前例のない判断」をするために
意思決定力を磨く「視点・視野・視座アップデート」

これら44のハックスキルに目を通した率直な感想は、「バラツキがある」というものだ。意識高い系がお得意のネットワーキングをしてみましたという程度で、「これで何の成果が出たのだろう?」と疑問に思うようなものも多い。しかしまあ、それで別に良いのかもしれないな、とも思う。大企業病を甘受した若手・中堅社員で溢れているよりは、大して効果がなくとも意識高く動き回っている社員が何人かいた方が、多様性もあるし、ブレイクスルーできるチャンスもあるというものだ。

もうひとつの感想は、3,000人もの規模のネットワーキング組織であるにも関わらず、この44のハックスキルを書いている人は、かなり重複しているというものだ。問題意識を感じている人は多くとも、動くことができる人は本当に少ないということなのだろう。たとえその中には、大した効果のない自己満足にまみれたハックスキルが含まれていたとしても。