村上春樹『一人称単数』

村上春樹の最新小説……だったのだが、発売されてから読むまでに随分な時間がかかってしまった。

わたしは村上春樹の結構なファンで、長編小説にとどまらず、短編小説、エッセイ、対談、紀行文などなど、書籍として出版されたものは絶版本も含めて全て読んできた。全集も持っている。翻訳についてはさすがに全て読むことはできないまでもね。

しかし本書は――どうだろう、あくまで個人的な感想だが、かつて村上春樹の小説を読んでいたときに(わたしが)感じていた切迫感のようなものが消え失せた気がする。わたしははっきり言って「ファン」なので、世間的に酷評されている作品でも全て楽しんできたのだが、今回は違う。まるで気の抜けたエッセイ、それも大して質の高くないエッセイを読んでいるみたいだ。村上春樹の作品で初めて「つまらない」と思ってしまった。あるいはただ「わたしには」合わなかったというだけのことかもしれない。そうだと良いなと思う。また数年後の新刊を楽しみに待つことができる。もし仮にこれが70歳を超えた村上春樹なりの「成熟」なのだとしたら、わたしはただ残念だと言う他ない。