三上延『ビブリア古書堂の事件手帖3 〜栞子さんと消えない絆〜』

極端に内気・内向的な性格のコミュ障だが美人で巨乳で主人公には(ある程度)心を開くという20代半ばの古書店の店主がヒロインで、幼少時の経験が元でほとんど本が読めないけれど本に興味はあるという20代前半の古書店の従業員が主人公。正直、笑ってしまうほどご都合主義的な設定なのだが、3巻にもなるとそればかりでもないところが目についてきて、色々と深みが出てきた気もする。

まずヒロイン(20代半ばの古書店の店主)は「本があれば他に何も要らない」というタイプであり、当然古書店業界においては貴重な資質の持ち主である。一方、「本が読めないのに本に興味はある」という主人公の設定は物語的にも古書店的にも何の役にも立っていない。本の知識がないからである。せいぜい肉体派であるためヒロインの護衛や荷物持ちとして役立つ程度である。

……と思っていたのだが、実はそう単純でもないことがわかってきた。

そもそも古書店というのは通常の書店とは異なり、なかなか興味深いビジネスモデルだと思う。古書店の取引先は、買い手と売り手が明確に区分されていない。買ってばかりの人、売ってばかりの人も当然いるわけだが、買う・売るを両方やる人もいる。また普段は買うだけの人が震災などを機に売り手に転じることもあれば、古書店で買った本を読んだり愛でたりしたあと同じ古書店に売りに来る人もいる。「せどり」と言って値付けの甘い古書店で客として仕入れて別の古書店や客に高く転売することも多々ある。そして古書好き・古書コレクターはそれほど数が多いわけではないから、売ったり買ったりするコミュニティは意外に狭く、同じ登場人物が何度も出てくるようになる。そして誰々が○○の古書をまとめて売ろうとしている/買おうとしているといった「噂話」が、古書店経営者やマニアたちの間で飛び交うようになる。

思ったより長くなったので端的にまとめると、要するに、買い手 and/or 売り手とのコミュニケーションはかなり重要であるということだ。

しかし本作のヒロインは「内気・内向的な性格のコミュ障」と前述した。「内気」とは人前(特に大勢の人の前)でおどおどしてしまうシャイな性格のことで、「内向的」とは外部への興味・関心や他者との接触を好まない性格のことだ。正直「性格」そのものを変えることは難しいかもしれないし、その必要もないが、仕事においては「行動」を変えねばならぬことがある。今回で言うと、内気だろうが内向的だろうが、顧客と適宜コミュニケーションを取って古書についての情報を引き出す、または情報が来るような関係性を作っておくべしということである。

実は、この「顧客と適宜コミュニケーションを取って」というところで、主人公が役立っている。主人公は対して知的でもなければ鋭くもないし、本の知識もないわけだが、特段コミュニケーションが不得手というわけではない。またヒロインも、主人公が同伴することで、これまでよりもアクティブに動けている。周囲も、「なんか男の店員が入って以来、本に関する悩み相談を(母親のように)積極的に受けるようになったようだ」といった主旨の噂が立っている。

なかなか面白い関係性である。