鈴木貴博『日本経済 復活の書 2040年、世界一になる未来を予言する』

元ボスコンの経営コンサルタントで、独立後は経営コンサルタントの肩書に加え、未来予測とイノベーション戦略の専門家、経済評論家、フューチャリストなどを標榜して色々な書き物を発表している方。本作は著者の得意技である「未来予測モノ」のひとつだが、面白いのは「こういう変革がなされれば日本経済は復活する」という前提で書かれていることだ。

著者のような未来予測の専門家だろうが、わたしのような素人だろうが、「日本の先行きが暗い」という見立ては残念ながら同じである。日本人の大多数も同じだろう。むしろ達観して受け入れている。しかし著者は、10の「魔改造」によって2040年の日本経済は復活することが可能だと説く。以下の「魔改造」は著者が書いた記載そのもの、レベル2のインデントはわたしが著者の言葉、あるいはそれを素に少し加工してわたしが補足したものである。

  • 魔改造1:移民によって日本の総人口を2040年に1億4000万人に増やす
    • 少子高齢化は決して必然ではない
  • 魔改造2:中央四国リニア新幹線を2030年代前半までに全面開業させる
    • 東京から博多まで2.5時間で繋がる 大阪が経済ハブとなり、四国がフロンティアとなる
  • 魔改造3:日本はモビリティ経済を選択する。スマホよりもクルマをみんながさわりたくなる未来を作る
    • メタバース大国か、それともモビリティ大国か――人と物が常に動き続け、たくさんの出会いからたくさんの機会が生まれ消費が広がる社会
  • 魔改造4:100万人レベルの自由に使える詳細な個人情報ビッグデータを構築する
    • (警察や公安や税務署が絶対に覗き見できない仕掛けにしたうえで)ヒトではなくAIが見て分析する仮名データの基盤を、従来の100倍以上の対価で構築する(今、個人情報収集の対価は概ね500円程度のポイントやクーポン)
  • 魔改造5:自動運転車という破壊的イノベーションを促進する権限は日本車メーカーから国に移管し、完全自動運転車の自己補償制度も国が担当する
    • 自動運転者の事故をどう防ぐ? 日本の自動車メーカーが生き残るための秘策
  • 魔改造6:ゼロ金利の永久債で400兆円を資金調達し、日本経済復活の魔改造のために使う
    • 財務省が毎年40兆円の借金の残高を積み上げている中、手遅れになる前に一回こっきりの復活原資を”今”使う
  • 魔改造7:原子力発電所の再稼働と新規建設計画で未来の電力不足を乗り切る(おまけの魔改造:宇宙休館に虫かごを飛ばしてみる)
    • 火力発電と原子力発電、どちらがエコなのか? 誰も本気で議論しようとしない「不都合な論点」
  • 魔改造8:人工知能による社会信用システムを完成させ、それを元に日本的な移民社会制度を構築する
    • IT監視社会と引き換えに、日本文化・日本社会を理解・尊重する移民を受け入れ、経済と安全の起爆剤とする
  • 魔改造9:400兆円の財源を元手に毎月10万円のベーシックインカム給付を2年間続けて日本経済を反転させる
    • 富裕層にベーシックインカムを給付するかどうかは制度のどうでも良い枝葉部分であり、富裕層の税率を1%上げることで簡単に解消できる
    • 貧困問題に対しては、純利益に対してかかる法人税を魔改造して、非正規従業員を含まない正社員1人あたり純利益額に応じて累進課税することで、非正規雇用の正社員雇用への切替を促進するアイデアも付属的に考えられる
  • 魔改造10:頭がイカれたヒトを日本のトップに選ぶ
    • 憲法を魔改造し、日本のトップは総理大臣ではなく国民投票で選ばれた大統領になるよう憲法を改正し、大統領と議会がお互い強い権力を持ちながら牽制し合う。任期は5年で再選は1回だけの最長10年のスパンで、強いリーダーシップを発揮できる人物を日本のリーダーに選べるように制度を変える

わたしは、著者が掲げる10の魔改造に対しては基本的に賛成だし、以前からこうすべきだと思っている。著者は、いずれの案も、どこまで行っても3割程度の反対者は残るだろうと書いている。わたしも残念ながら同意せざるを得ない。しかしながら、ロジカルな思考力と思考習慣があり、古き良き日本を守って衰退することよりも、変化を受け入れて日本が素晴らしい国になってほしい人間は、基本的にこれらの案を支持するはずだし、支持すべきだと思う。

もちろん全てに賛成するかどうかは置いといてね。

わたし個人の考えを補足すると、まず、魔改造7の原発再稼働は不要だと思う。しかし理由は、火力発電を延命させろという意味ではない。むしろ火力発電はほとんど死に絶えるだろう。サステナビリティは今、物凄い「うねり」で動いており、2050年までに世界中でかなりの再エネ関連の動きが出てくると思うから、原発を慌てて再稼働させる必要はないと考えているだけである。次に、最も驚いたというか、自分にその観点がなく唸らされたのは魔改造3だ。わたしは1978年生まれで、10代後半で自分と社会の行く末がどうなるのだろうと気になり始めた頃から、急速にWindowsだのネットだの2chだのiMacだのという進化を目の当たりにしてきた世代である。だからデジタルネイティブ世代以上に、本書の言う「メタバース経済」すなわちデジタル化を前提とした経済になっていくのだろうなという思いがある。しかしその行き着く先は『マトリックス』の世界線だろう。今でもそうだ、全てがネット上で完結し、想像力に裏打ちされた未熟で歪なファンタジー世界と搾取前提のソシャゲだけが楽しみという方は増えていると思う。誰かと会ったりペットと暮らしたりどこかに出かけたり美味しいものを食べたり綺麗な夜空に感動したりする社会は魅力的だし、まずは「実態経済と実態社会ありき」だとわたしも思う。それが著者の書く「モビリティ経済」であり「モビリティ大国」だ。

最後に、本書に反論・反対する人たちに向けて著者が浴びせかける「冷や水」についても触れておこう。

これらの魔改造に反対する人たちは、3割ぐらいいるだろうと著者は述べている。そのとおりである。極端すぎるという人もいるだろう。しかし現実は、10の魔改造のいずれも、実はじわじわと魔改造の実現に向けて動いているという「冷や水」だ。

そりゃそうである。リニア新幹線が東京ー大阪間を2027年に繋ぐことは現状おそらく不可能だろう。しかしいつかは必ず実現する。アメリカや中国に比べて遅れている日本の自動運転事情も実は今年(2023年)福井県でレベル4の実証実験が行われた。原発だって空気を読んでいるだけで再稼働はいつでもできる状態で、また今のままの火力発電所頼みでは脱炭素社会に移行できない。移民だって年々増えている。そして上で書いた通り国の借金だって年々増えている――そう、日本の「魔改造」すなわち「改革」に必要なのは、変化の「スピードと規模」であると著者は説く。わたしも深く同意する。いつもながらのクソみたいな日本のままでは、おそらくじわじわと100年がかりで現実追従型の変化が起きるだけで、完全に世界に取り残されるだろう。「失われた○十年」という言葉も死語になる。日本社会と日本経済の未来は、永遠に失われるのだから。

著者の言うように、先手を打って、圧倒的なスピードと規模で日本社会を変革していくしかないと思う。

それが著者の言う「魔改造」の正体だ。

変えたくない人、考えたくない人、認めたくない人にとっては「不都合な真実」だと思うけれどね。