白浜鴎『とんがり帽子のアトリエ』8巻

この世界における「魔法」は「技術」とニアリーイコールだ。特別な「魔の墨インク」と決められた「魔法陣」、それさえあれば誰でも魔法を使うことができる――これがこの世界における秘密であり、本作の肝となる設定である。魔法陣の図形や矢印のひとつひとつに意味があり、その意味を学んで正しく線を引ければ、魔法を使うことができる。繰り返すが魔法は技術なので、使いこなすためには厳しい修行が必要である。一方、意味を知らなくても、インクと魔法陣があれば、素人でもとりあえず魔法を使うことは可能なのである。だから魔法使いはその事実を隠す。自らに厳しい掟を課し、魔法を使うところを誰にも見せない。そして魔法とは「才能」であり「血筋」だという設定を流布する。

つまり嘘である。

誠実な嘘、真剣な嘘、善意の嘘が正しいか正しくないかは難しい問題だ。犬に食わせればわかるだろう。

いずれにせよ、大きな真実を覆い隠すと、それが何であれ、世界には影ができる。否応なくできるのだ。

わたしは本作を読みながら、いつもそんなことを考える。

魔法使いたちは、皆、そうした掟が正しいものだという前提で活動する。なぜ正しいのか、そこはもう真理なので、良くも悪くも思考停止なのだ。

主人公は繰り返し、その前提となる価値観を揺さぶられ続けている。この物語がどう展開するのか、本当に楽しみだ。そして怖い。