米澤穂信『米澤穂信と古典部』

米澤穂信と古典部 「古典部」シリーズ (角川書店単行本)

米澤穂信と古典部 「古典部」シリーズ (角川書店単行本)

『氷菓』でブレイクしてアニメ化もされた「古典部」シリーズの、著者公認どころか著者が中心になり作ったファンブック。

古典部の新作短編が載っているとのことで購入してみたが、それ以外は本当にファンブックだなあ。ミステリの大御所作家との対談とか、正直あんまし興味ない。でも新作短編は面白かった。早く続編が読みたいなあ。次は長編かな。

米澤穂信『いまさら翼といわれても』

いまさら翼といわれても【電子特典付き】 「古典部」シリーズ (角川書店単行本)

いまさら翼といわれても【電子特典付き】 「古典部」シリーズ (角川書店単行本)

日常の謎×安楽椅子な青春ミステリである「古典部」シリーズ第六弾。

第五弾からかなり時間が経ってしまっており、正直もう続かないのかなと思っていたのだが、何とか続いている。今回は短編集なので全体的な印象は言いづらいのだが、やはり白眉は表題作「いまさら翼といわれても」だ。これは古典部の位置づけや、千反田えるのパーソナリティを揺るがしかねないエピソードであり、今後どう持っていくか非常に気になる。

いや、作品に倣うなら「わたし、気になります。」だな。

稲垣えみ子『もうレシピ本はいらない』

もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓

もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓

土井善晴『一汁一菜でよいという提案』の実践編とでも言うべき本。
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わたしは土井善晴の『一汁一菜でよいという提案』を読んで、深い感銘を受けた。受けたが、やはり続かない。自分で食べた食事に飽きたわけではないのだが、やはり忙しいときは「面倒」や「時間がない」が勝ってしまうのである。

本書は、調理器具や調味料など、自分で一汁一菜を続けてきた経験を書くことで、(土井善晴の本ほどの感銘はないものの)もう一度やろうかなと思わせてくれるきっかけにはなった。

機本伸司『卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動』

卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-10)

卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-10)

天才女子高生・穂瑞沙羅華と凡庸な主人公の活躍を描く『神様のパズル』の続編となる「穂瑞沙羅華の課外活動」シリーズである。課外活動シリーズとしては、『パズルの軌跡』『究極のドグマ』『彼女の狂詩曲』『恋するタイムマシン』に続く第五弾であり、完結作である。なお本書の「あとがき」がけっこう興味深く、わたしはSF的なモチーフばかり気にしていたのでこれまで全く気づかなかったのだが、幾つかの裏話的なものが開陳されている。それらも少しだけ補足しながら、シリーズ全体を振り返ってみたい。

まず出世作『神様のパズル』は、物理学を手がかりに「宇宙を人工的に作ることは出来るか」というモチーフでSFが組み立てられていた。ストーリーというかジャンルは言うまでもなくSFなのだが、その裏側にあるのは「自分とは何か」という深い問いであり、「自己愛」というテーマである。ヒロイン・穂瑞沙羅華は天才児であるが、いや天才児であるが故に、自分とは何かを深刻に捉え、時に暴走してしまう。
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課外活動シリーズ第一作『パズルの軌跡』は、脳科学を手がかりに「幸福を人工的に作ることは出来るか」というモチーフで展開されたSFである。本編である『神様のパズル』と同様、裏側には「自分とは何か」そして「自己愛」という深い問いがあるのだが、それに加えて課外活動というだけあって、天才児であるヒロインが、凡人である主人公と一緒に色々な経験をすることで、成長していくことになる。本作の裏テーマは……なんだろう、改めて考えると兄妹愛かもしれない。
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課外活動シリーズ第二作『究極のドグマ』は、生命科学を手がかりに「天才児を人工的に作ることは出来るか」というモチーフのSFである。本作は、穂瑞沙羅華が自分の出自を知って深い葛藤や絶望を経験するわけで、個人的には超重要な作品である。当然、「自分とは何か」「自己愛」は重要なテーマなのだが、それに加えて本作では動物愛という裏テーマがあるように思う。
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第三作『彼女の狂詩曲』は、一言で書き表せない重層的なプロットだが、敢えて書くならば「未知の素粒子発見を目指して建造された巨大加速器“むげん”の事業仕分けを回避することは出来るか」というテーマというかストーリーであった。本作の裏テーマは……なんだろう、本書の「あとがき」から推測するに、家族愛だったのかな。ここで穂瑞沙羅華の父親が色々と登場してきたような記憶もあるが、ちょっとうろ覚え。今度読み直そう。
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第四弾『恋するタイムマシン』は、タイトルの通り「タイムマシンを人工的に作ることは出来るか」というモチーフで、時間の謎を追求したSFである。タイトルにも「恋する」とあるのであまり裏側ではないが、SF的なモチーフの裏側には異性愛という裏テーマがあるようだ。
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最後に、第五弾である本作『卒業のカノン』は、「地球温暖化を解決できるか」もしくは「エネルギー問題を解決できるか」というモチーフのSFである。しかしこれまでのシリーズと決定的に違っていた点がある。これまでは、天才児であるヒロイン・穂瑞沙羅華の暴走によってストーリーの多くが展開していたのだが、穂瑞沙羅華は今回、事件を起こす側ではなく、止める側である。しかも宇宙太陽光発電事業の出資者に脅迫メールが来て、車に依存しない社会をテロで強制的・暴力的に作り上げていくという、なかなか過激なものである。

上記を踏まえてもう少し書いていくが、本シリーズは穂瑞沙羅華が様々な事件を通して人間として経験・成長し、「やがて“アガペー”――無償の愛にいたる」という構想だったことが、本書の「あとがき」で書かれていた。しかし無償の愛とは何なのか。少なくとも穂瑞沙羅華は聖人君子になったわけではなさそうだ。わたしが思うに、穂瑞沙羅華は自分のためにはならないことは、基本的にはやらないタイプである。当たり前であるとも言えるし、人付き合いが下手だとも言える。しかしいずれにせよ、他人のために何かをして、それが感謝されたときには嬉しいし、たとえ感謝されなくとも(すなわち見返りがなくても)誰かのために何かをすることがある。それが無償の愛だというのなら、本書で穂瑞沙羅華は、無償の愛を経験したと言えるかもしれない。テロは確かに憎むべき行為だが、穂瑞沙羅華が命懸けでそれを止める義理はないからである。

まあ(ネタバレになるから避けるけど)裏には色々と背景があり、本当に無償の愛だったかどうかは微妙だけどね。

しかしこれで穂瑞沙羅華の課外活動シリーズも完結かー。もう少し続けてほしかったが、このぐらいで作者も次のステージに進むべきなのかもしれない。

「読みやすい文体で余韻のある本」というのは貴重であり、わたしにとってはど真ん中のストライクである。完結はしたが、これから何度も大切に読み返していきたい。

冷泉彰彦『予言するアメリカ 事件と映画に見る超大国の未来』

予言するアメリカ 事件と映画にみる超大国の未来 (朝日新書)

予言するアメリカ 事件と映画にみる超大国の未来 (朝日新書)

なぜ映画をベースに批評するのか。

鏡も何も、現実そのものが映画より馬鹿げていて、現実そのものを分析すれば事足りるわけなのに。

ただし、この人は共和党的な考え方と民主党的な考え方をきちんと理解していて、かつ読者にしっかりと説明しようとしている。この二大政党制の考え方がわからないと、アメリカ社会の分析は全て的外れなものになってしまうと思う。その意味では、映画論的なアプローチな若干気に入らないものの、この著者は依然として一般ピーポーには極めて有益な書き手であり、本書も相対的にはアメリカすなわち国際動向を理解するのに重要な本だと言って良い。

北島達也『ハリウッド式 THE WORKOUT - 分単位で自分史上最高の身体をつくる 脳と身体のコネクトメソッド』

ハリウッド式 THE WORKOUT - 分単位で自分史上最高の身体をつくる 脳と身体のコネクトメソッド -

ハリウッド式 THE WORKOUT - 分単位で自分史上最高の身体をつくる 脳と身体のコネクトメソッド -

鍛えるところは鍛え、そうでないところは鍛えない……メリハリをつけたトレーニングでメリハリのあるボディーになるべきだというのが著者の主張。わたしはメリハリのあるボディーよりは、全身がバランスよく鍛えられて思い通りに動かせる体操選手のような肉体が格好良いと思うのだが、ここは「バランス」の定義の違いだろうね。

大胸筋を鍛える前に、大胸筋の位置とか動きの感覚を理解することが重要で、そのための方法が載っていたのは凄く興味深かった。確かに、わたしのような非トレーニーには、どうやって大胸筋をピクピクさせているのか全く想像がつかないんだよなあ。

加藤洋平『組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』

組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学

組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学

発達心理学を学んだコーチ(著者の投影か)と、たまたまバーで出会ったコーチにコーチングを受けながら仕事を少しずつ好転させていくサラリーマン(当然読者の投影である)描いたビジネス小説。

ストーリーにすることの功罪というか、そもそもストーリー仕立てにしなければもっと薄くなったんじゃないかという気もする。ただ、この手の内容をすっと理解できるのはわたしが元・人事コンサルタントだったからという可能性もあるし……難しいなあ。

シェリル・サンドバーグ+アダム・グラント『OPTION B』

OPTION B(オプションB) 逆境、レジリエンス、そして喜び

OPTION B(オプションB) 逆境、レジリエンス、そして喜び

  • 作者: シェリル・サンドバーグ,アダム・グラント
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2017/07/20
  • メディア: Kindle版
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オプションAが制約条件を全く無視したベストな選択だとしたら、オプションBはいわば次善の策である。Aを採れるなら、文句なしにAを採用したい。しかしAはもう無理なのだ……そんな場合がある。その中で、どのようにオプションBを受け入れて未来を切り開いていくかを書いたのが本書である。著名なビジネスパーソンが書いているし(フェイスブックのCOO)、翻訳版が日経から出版されていることや体裁などからも判断しても、売り出し方は完全にビジネス書のそれである。しかし中身はもっとパーソナルなものである。OPTION Bを受け入れるための方法論が描かれているものではないし、複数あるOPTION Bをどのように探し出たり選んだりすべきかの方法論もない。シェリル・サンドバーグが夫を失ってしまい、そこからどのように立ち直っていったかを書いているだけで、普遍化・汎用化されたアプローチではないなと感じる。なんというか、受け取り方に困る本である。

山梨広一『3原則』

3原則 働き方を自分らしくデザインする

3原則 働き方を自分らしくデザインする

生産性だけではなく、生産性・こだわり・遊び心の3つでもって「しごと」を再定義していきましょうという本。わたしが著者と同じく(といってもマッキンゼーではないが)コンサルティングファームをバックボーンとするからだろうか、スッと頭に入ってきて「同意」という感覚はあるのだが、あまりグッと来るものがなかった。要は「当たり前」に聞こえるというか。

でも世の中を見渡すと、あまり当たり前でもないしなー。

難しいところです。

ポール・ウェイド『プリズナー・トレーニング』

プリズナー・トレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ

プリズナー・トレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ

  • 作者: ポール・ウェイド,山田雅久
  • 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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著者は元囚人で、23年間も服役したそうだ。しかもそのうち19年間は、アンゴラやマリオンといったアメリカでも有数の過去な監獄に収監されていた。監獄生活は極めてタフであり、強くなければ生き残れない。そこで著者は監獄の中でもできる自重トレーニングを徹底的に開発して、ひとつの体系(著者はキャリステニクスという言葉を使っている)としてまとめ上げた。それが本書である。

なお本書の原題は『CONVICT CONDITIONING(囚人のコンディショニング技術)』であり、著者はこのタイトルに相当な思い入れを持っているのだが、営業上の理由なのか、日本語版の書名は『プリズナー・トレーニング』となっており、刃牙で知られる板垣恵介のイラストが表紙に載っている。前者の書名についてはまあ仕方ないかという気もするが(コンビクトという英単語は日本人にあまり馴染みがない)、後者のイラストについては完全に失敗だと思う。

なぜか?

本書の一番の特徴であり主張は、自重トレーニング(自宅トレではない)だけで筋力トレーニングが可能であり、ダンベルやバーベル・各種マシンを使ったそれよりも有効であるというものだ。ダンベルやバーベル・各種マシンを使って鍛えた風船のように膨らんだボディービルダーの筋肉に価値はないというのが著者の主張なのである。しかし板垣恵介のイラストは、明らかに「風船のように膨らんだボディービルダーの筋肉」なのである……。

そもそも自重トレーニングは現在、一般的には「筋持久力トレーニング」とされているが、やり方を工夫すれば自重トレーニングでも相当な負荷をかけた「筋力トレーニング」を行うことができる。例えばワンアーム・プッシュアップ、ワンレッグ・スクワット、ワンアーム・プルアップなどは相当な筋力がなければ行うことはできない。ハンドスタンド・プッシュアップ(要は逆立ちでの腕立て伏せ)を片腕でやってのけるという神業については、世界でもまともにやれる人がほとんどいないということでアメリカでも厳しすぎると批判の対象になっているぐらいである。また、ダンベルやバーベル・各種マシンを使ったトレーニングというのは、要は自重ではない重りを持ち上げるというものであり、一部の筋肉を風船のように膨らませる代償として、トレーニーの関節や腱には過剰な負荷がかかり、怪我や身体的不調と付き合っていかねばならない。またマシンを使ったトレーニングは筋肉を分離して鍛えるものだが、肉体というのは結局のところ総合的に筋肉を動かしてパフォームするのだから、別々に鍛えても意味がない。安全に負荷をかけつつ全身を鍛えるのが自重トレーニングだと著者は述べている。

本書では、プッシュアップ、スクワット、プルアップ、レッグレイズ、ブリッジ、ハンドスタンド・プッシュアップという6つのトレーニングを「ビッグ6」として、その6つにそれぞれ10段階のトレーニング法を設定している。どのトレーニングもステップ1は(怪我をしている・していた人を除けば)誰でも簡単にやれるものである。しかし次のステップに進むのをグッと堪えて、物足りないなというぐらいのステップをじっくりこなしていくことを著者は薦める。それは次のステップに進んだ瞬間にできなくなって、無理にこなそうとして怪我をしたり、モチベーションを失ってしまうことを避けるためである。自宅で自重でトレーニングするというのは孤独な作業だ(監獄の中はもっと過酷だっただろうが)。無理をし過ぎず、誰でもやれるようなトレーニングも、フォームに気を配り、反動を使わず、完璧にこなしてから次に進む。そうすると次のステップに進んでも全然できないということはなく、ステップを着実に進めることができる、というのが著者の信念だ。そしてどのトレーニングも最後のステップ10では、常人ではとてもできないレベルのトレーニングになっている。すなわち、ワンアーム・プッシュアップ、ワンレッグ・スクワット、ワンアーム・プルアップ、ハンギング・ストレート・レッグレイズ、スタンド・トゥ・スタンド・ブリッジ、ワンアーム・ハンドスタンド・プッシュアップの6種だ。常人ではひとつもこなせないだろうが、本書曰く、アメリカでは腕を鍛えるのが流行っており、ワンアーム・プッシュアップだけができるという人はそこそこいるようだ。しかし6つ全部できる人はほとんどいない。

わたしが本書のアプローチで気に入ったのは、あえて軽いステップから我慢してやり続けるということだ。もっと高いステップを1回や2回はやれるのだが、あえて我慢して低いステップでトレーニングをした後に高いステップに挑戦する時のことを、著者は「モチベーションが沸騰している」と表現している。その数ヶ月前、1回や2回を無理してやれたであろう肉体は、低いステップで我慢してやったことで、高いステップをこなすための準備が肉体にも精神にも充満している。準備が整っているということだ。自分はやれるだろうという確信のもとに、1回や2回ではなく、初心者の標準どころか中級者の標準までもクリアしていく。しかしまた、そこで完璧に自分の体をコントロールできるまで、そのステップでトレーニングを繰り返し、次のステップの準備を続けていくのだ。このサイクルを続けていけば、いつしかステップ5やステップ6に到達する。腕立て伏せで言えばステップ6はクローズ・プッシュアップであり、プルアップで言えばステップ5がフル・プルアップである。腕立て伏せも数回なら誰でもできるが、体幹を意識しながら正しくこなすのは容易ではない。同様に、フル・プルアップを正しいフォームと無反動で数十回やれる人が果たしてどの程度いるだろうか。しかし、これでもまだ中盤なのだ。

なお、6つのトレーニングで良いのかという問いに対して、著者は基本的にはこれで良いと回答している。6つより多いと手が回らないし、6つより少ないと鍛え方にムラが出る。ベースはビッグ6のステップを着実にこなしていくことに尽きる、しかし飽きても良くないので、変化をつけるためのバリエーションを本書ではたくさん載せている。

本書の理想は、ボディービルダーの体ではない。しかし最近流行りの細マッチョかと問われると、それもまた全然違うのである。わたしの理解では、本書の理想はトップクラスの体操選手の肉体に近いと思う(本書に出て来るモデルを見る限り、日本人の体操選手よりはもう少しマッチョだけどね)。本書でも何度か体操選手の比喩が出てくるのだが、体操選手の肉体は、肩や背中の厚みが実は物凄い。胸や腹といった体幹周りも凄い。あれをちゃんと見て「細マッチョ」という人はいないだろう。しかしボディービルダーのそれともちょっと違う。体操という競技の特性上、彼らは自重トレーニングを徹底的にやっているようなものなので、自重に耐え切れるだけのああいう筋肉がつくのだと思う。わたしも体操選手の肉体は格好良いなあと常々思っていたので、本書はビッと来た。まああとは実践あるのみ。ステップ1からね……。

大川慎太郎『不屈の棋士』

不屈の棋士 (講談社現代新書)

不屈の棋士 (講談社現代新書)

わたしの長年の友人が将棋にハマっているとのことで、紹介されて読んだ本。

確かに売れている本ではあるのだが、観戦録や戦術書ではなく、AIと将棋の関係に迫ったインタビュー集というのがなかなか渋い。

個人的には、別に将棋ソフトが人間の棋力を抜いたところで何の落胆もしない。人間はミスをする、そして体調や心理状態が勝負に影響する。それが面白いのではないか。例えばマラソンだって、単に心肺機能やスタミナの勝負をしたいだけなら、ペースメーカーをつけて、一人ずつベストな状況で走れば良いのである。しかしそうはしない。ベストなペースでベストなタイムを出せばそれだけで勝てるかもしれないのに、42.195キロという極限の戦いを乗り切る可能性を少しでも上げるために、相手を揺さぶって自分が有利に立とうとする。そういう駆け引きがわたしは面白い。また、たとえ車の方が速くても、人間の力の限界を見せようとする100メートル走にわたしは痺れる。要は、わたしは「車や原付の方が速くてもボルトの偉業には価値がある」「ヒグマや戦車の方が強くても、人間同士の柔道や総合格闘技の鬼気迫る攻防は面白い」と考えるタイプなのだ。

しかし将棋ファンや棋士としてはそうではないようで、この何年か、様々な議論が繰り返されてきたし、その結果として新たなファンを獲得すると同時に、これまでのファンが離れてしまう事態にもなっているようだ。そうしたことを踏まえ、ある種の危機感というか、棋士や将棋ファンは将棋ソフトとどう向き合っていけば良いのかを、現役棋士へのインタビューを素に掘り下げようとしている。

わたしの考えは上記の通りで、本書を読んでも変わることはないのだが、棋士の様々なスタンスや葛藤には、色々と考えさせられた。非常に面白い本である。

ケンドー・カシン『フツーのプロレスラーだった僕がKOで大学非常勤講師になるまで』

フツーのプロレスラーだった僕がKOで大学非常勤講師になるまで

フツーのプロレスラーだった僕がKOで大学非常勤講師になるまで

ケンドー・カシンは現役プロレスラーでありながら早稲田の大学院に通い、その後大学非常勤講師になったのだが、別に教育論などを述べた本ではない。もう純粋に、ケンドー・カシンの半生をインタビュー形式で明らかにした本である。わたしはケンドー・カシンの大ファンなのだが、大ファンだけに「まともな本ではないのではないか」と懸念しながら購入していた。カシンの言動は非常に破天荒で、プロレス界きっての問題児と呼ばれているからである。しかし思っていたよりも真面目に語ってくれている。

とはいえ、そこはカシンである。真面目と言っても、どこか人を食っている。例えば、本書のインタビューの冒頭はこんな調子である。

――永田裕志選手の自伝は、永田さんが病魔と闘う少年を「俺も頑張るから、君も頑張るんだぞ」と元気づけ、その後、試合に負け続ける永田さんを、少年が「今度は僕が永田さんに勇気を与える板です」と励ましたという感動的な話から始まるのですが、カシンさんにはそういうかたはいないのですか?

 僕は永田くんと違って、そのようなファンには一度も出会ったことがございません。ただ、創作することはできますが?

――いえ、そういうわけにもいかないので……。

基本的にはケンドー・カシンのファン・グッズだが、色々あけっぴろげに語っているので、プロレスファンや格闘技ファン全体に薦めることもできるかな。極私的には必読。

侍留啓介『新・独学術』

新・独学術――外資系コンサルの世界で磨き抜いた合理的方法

新・独学術――外資系コンサルの世界で磨き抜いた合理的方法

副題は「外資系コンサルの世界で磨き抜いた合理的方法」とある。

記載の大半を占めるのは、大学受験用の参考書を買って独学しなさいということと、どの参考書をどう使っていけば良いかということである。

まあ冷静に考えると、わからんでもない。確かに大学受験用の参考書は、わかりやすさも効率も、一般の教養書以上に徹底して合理的でなければ、受験生の支持は得られない。

椋木修三『超高速勉強法』

超高速勉強法

超高速勉強法

「精読」「熟読」の名の下にちんたら勉強するのは止めて、流し読み&反復で、何度もトレーニングすべし。

一言で書くとこれだけなのだが、まあ確かにそうかなと思う。わたしもよく、わからないのでついつい「沈殿」するように勉強することがあるが、わからないことはわからないので、さっさと色々な本や論文に当たっていく方が、結局は理解度が高まっている。(資格勉強は全然やらないので違うかもしれないけど)

読書猿『アイデア大全』

アイデア大全

アイデア大全

思考法や発想法を集めて解説した本。昔『考具』とか『アイデアのつくり方』といった本があったが、それをもっと徹底した感じ。質も量も十分で、発想法に関する本は一旦これでファイナル・アンサーとして良いのではないか。発想するために大事なのは、発想法の本をいくつも読むことではなくて、実際に発想を繰り返してみることである。