みずほ総合研究所『キーワードで読み解く地方創生』

もう少しキーワードそのものに切れ味があると良いんだが。

なんか手垢がつきまくった用語が多い。今さらUターン・Iターン・Jターンを解説したところで、何か得るものがあるのだろうか。まあ勉強にはなるからつべこべ言わず目を通せってことなのかな。

石川善樹『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』

フルライフとは充実した人生のことだ。その反対のエンプティライフが空っぽの人生。「どんなことを考えてどんなことをすることでフルライフが得られるか?」を著者なりに考えたのが本書なのだが、言葉遣いがなかなか独特で、読み始めからじんわり刺さった。

例えば、著者は「フルライフとは、Well-DoingとWell-Beingの重心を見つけること」と定義している。ここでの"重心"とはプロイセンの軍事学者クラウゼヴィッツの「戦略家の仕事は、”重心”を発見すること」という言葉から援用しているのだが、この重心という言葉の定義も、「自律」に置き換えて解説している。そして自律とは「自由と規律のバランスを取ること」とある。聞けば「なるほど」なのだが、先ほど書いた通り言葉遣いがなかなか独特だ。先ほどのWell-DoingとWell-Beingも、シンプルに書けば要するにオンとオフのバランス、ワークライフバランスなのだが、正直ワークライフバランスと狭量に整理すると、仕事をしすぎないようにして……あるいは成功するにはガムシャラに働いて……という浅い二元論になる。その意味で、こうした言葉選びのセンスは重要なのだと思う。

本書では色々なことが書かれているが、個人的に最も興味深かったのは「1週間の時間の捉え方」である。一般的には月曜日を1週間の始まりとして捉え、週末と名のつくとおり土日で静養したりリフレッシュしたりしている。しかしこれには問題があり、平日の疲れを休日に「寝溜め」して帳尻を合わせるために、休日の起きる時間と寝る時間が変わり、その結果、月火水の3日程度はせっかく休んだのに「社会的時差ボケ(旅行などに行ってなくとも時差ボケに似た症状が起きること)」で週の冒頭から既に疲れており、100%のパフォーマンスを発揮できず、そしてやっと社会的時差ボケに慣れた頃には週末を迎える――という悪循環に陥る人が多いそうだ。

めちゃくちゃわかる!!!!!

この問題の解決策としては、まず一義的には平日と休日の起きる時間を寝る時間を一定にして、寝溜めからの社会的時差ボケを起こさないようにすることが重要である。そして具体的には、1週間の始まりを「土曜の朝」とすることが重要だと著者は説く。1週間の始まりを寝て過ごすのではなく、またやらなければならないことをやるのではなく、やりたいことをやるようにする。心理学で「ポジティブスケジューリング」と呼ぶそうだ。

そして土曜始まりのカレンダーを作ることで(紙では存在しないのでデジタル版のカレンダーで設定する)、「今までの土日の自分はだらけすぎていたな」と気付けるそうだ。確かに気づける。何ならわたしは、(仕事で見るカレンダーだから)平日の5日間しか表示させていなかったが、土日の予定をまず見ていくべきかもしれないと思った。

ジェレミー・アトリー+ペリー・クレバーン『スタンフォードの人気教授が教える「使える」アイデアを「無限に」生み出す方法』

うーん。イマイチ。というかピンと来ない。

最近アイデア発想法や事業創出の方法論に係る本を有名なものから無名なものまでまとめて読んでいるが、どれもこれもピンと来ないんだよな。

本書の書く「質よりも量を追求せよ」というコンセプトには何となくふんわり賛同した。しかし結局、どうやったら量をたくさん出せてそれが質に転化するのか、それがわからない。

アンドリー・セドニエフ『IDEA FACTORY 頭をアイデア工場にする20のステップ』

すごく評判の良いアイデア創出テクニック本という触れ込みだが、正直ピンと来なかった。

なんだろなー。もうちょっとTechnicalというか、方法論チックなものを求めているのかも。

矢野友理+STUDY HACKER『数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」』

まるで「なろう系の小説」のような書名だ。

タイトル以上の内容はない。

問題を解くのではなく、ひたすら参考書を読むことで、参考書を高速で回せるというハックである。

良いか悪いか……と問われると、正直よくわからない。ただし面白さは感じた。

もう10年近く前だが、山口真由というタレント弁護士が書いた『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』という本を読んだことがある。これが文系だけでなく理系の勉強法にも使えるのかもしれない、いや、使えたら凄い……そういう面白さである。

incubator.hatenablog.com

風流小茄子『Kindle作家のための誤字脱字完全攻略ガイド』

わたしの部下に、めちゃくちゃ誤字脱字をやらかす人間がおり、正直ものすごくストレス。

わらにもすがる思いで読んでみたが、正直期待外れかな。

わたしは長年コンサルということもあってプロジェクトベースの配下は数百人に及ぶ。その中には、今の部下と同等もしくはそれ以上に誤字脱字の多い人間がいた。わたしの場合、アウトプットは部下の作成したものを含め極めて丁寧に見るため、彼らの誤字脱字の様子をこの著者以上に見ていると思う。その立場の人間から申し上げると、「ク」と「ワ」を間違えるといった手書き原稿時代の失敗は今はほぼ100%発生しない。「本件は」を「本拳は」と書くような変換ミス、あるいは雑なコピペのため「クリエイティブに」を「クリエイティ」と脱字したり、「クリエティブにに」といった余計な文字が入るというケースが多い。

対処法も大したものは書かれていない。

宮本道人『古びた未来をどう壊す?~世界を書き換える「ストーリー」のつくり方とつかい方~』

単に書名が格好良くて何となく気になったから買ったのだが、中身は「SF思考」の本。

わたし自身SF思考の本を何冊か読んでいるし、世の中的にも最近よくSF思考が取り上げられているが、SF思考と言われた際に採られているアプローチは大きく「SFプロトタイピング」と「SFバックキャスティング」の2つであると思う。

まずSFプロトタイピングとは、本書によれば以下の3つの要素を備えていることである。

  • 未来像や別様の可能性を「フィクション」の形式で作り出すこと
  • 作品制作が最終目的ではなく、別の目的を持ってSF作品を作ること
  • クリエイター以外の専門家が関与して創作が行われること

次に「SFバックキャスティング」とは、これも本書の定義を紐解くが、「フォアキャスティング」と対になる言葉であり、現在を起点に未来を予測するのではなく、未来を起点として逆行的に現在までの道すじを考えることである。ただ、ここまでだと単に「バックキャスティング」だ。本書で言うSFバックキャスティングとは、正確には以下の要素を備えていることである。

  • 未来ストーリーを参考にして「今やるべきこと」を考えること
  • 単にビジネス的に逆算するのではなく、逆算のプロセスでもSF要素を介すこと
  • フィクションを要素分解し、一部でも現実化して社会を変えようとすること

要するに、発想を遠くに飛ばして未来像を描く「SFプロトタイピング」と、その未来像を現実と接着して着地させる「SFバックキャスティング」をセットにした概念がSF思考である。そして更にSF思考を使いこなすためにアプローチを細分化すると、「つくる→あらわす→つかう→なる」のサイクルで表せるようだ。

  • SFプロトタイピング
    • ステージA:未来ストーリーを「つくる」――世界観とプロットをざっくり考える
    • ステージB:未来ストーリーを「あらわす」――世界観とプロットを「SF作品」に仕上げる
  • SFバックキャスティング
    • ステージC:未来ストーリーを「つかう」――フィクションを要素分解し、現実とのリンクを探す
    • ステージD:未来ストーリーに「なる」――フィクションから生まれたアイデアを現実化する

未来起点で将来像を「つくる」ことをして、SF作品に「あらわす」ことでその将来像を豊かにイメージし、将来像を現在に引き戻すのだが、引き戻す際に安易に矮小化せず、現在地とSF作品の接点を探していく(SF作品を「つかう」)、そしてSF作品で表された未来ストーリーを部分的にでも現実化していく(SFの世界に「なる」)――これがSF思考だと本書は説く。

個人的には、なかなかわかりやすくて「なるほど!」と思えた。

他のSF思考の本よりも、わかりやすくてイメージしやすいような気がする。

小沼敏郎『アイデアの育て方』

アイデアの育て方

アイデアの育て方

Amazon

わたしは電子書籍で読んだから気づかなかったが、「分量少ないな?」と思ってAmazonでチェックしたら、かなり小ぶりの本らしい。

14日間かけて以下のようなことを検討しましょうという本なのだが、書名にあるとおり、アイデアそのものではなくアイデアをどう育てるかが重要というスタンスである。またアイデアは横に広げる(50個出す、100個出す)のではなく、縦に広げる(ひとつのアイデアをきちんと掘り下げる)ことが重要というスタンス。

アイデアを育てると決める【DAY1〜3】
焦らず静かにアイデアと向き合う二日間
 問1「そのアイデアをどうしたいか」
 問2「アイデアを育てる準備は整っているか」
 問3「アイデアを言葉にできるか」
 問4「アイデアの目的や価値は何か」
 問5「アイデアの登場人物は誰か」

アイデアにイマジネーションを与える【DAY3〜5】
自由に想像しアイデアを膨らませる三日間
 問6「そのアイデアで喜ぶ一人と一万人を考えられるか」
 問7「そのアイデアが最高にうまくいったら」
 問8「『こんな感じ』が表現できるか」

アイデアを突き詰める【DAY6】
集中してとことん考え尽くす一日
 問9「アイデアに関して調べまくっているか」
 問10「そのアイデアがユニークな点、オリジナルな点は何か」
 問11「そのアイデアの中に新しい言葉はつくれるか」
 問12「そのアイデアを構築するキーファクターは何か」

アイデアなんて忘れる【DAY7〜8】
あなたもアイデアも休んで寝かせる二日間
 問13「アイデアから距離を置けるか」
 問14「アイデアに心身をすり減らしていないか」
 問15「アイデアを捨てられるか」

アイデアを否定する【DAY9】
現実に向き合う最も不安でシビアな一日
 問16「ネガティブファクターは何か」
 問17「ネガティブファクターを乗り越えるアイデアは何か」
 問18「失敗、撤退の定義はできているか」

アイデアを洗練させる【DAY10〜11】
伝わりやすさを作る二日間
 問19「『事実』と『仮説』は切り分けられているか」
 問20「アイデアを解像度高くホットに伝えられるか」
 問21「そのアイデアは端的に語れるか」

アイデアを話す【DAY12〜13】
あなたのアイデアをみんなのアイデアにする二日間
 問22「どんなフィードバックが来ているか」
 問23「未来の仲間はつくれそうか」

アイデアを旅に出す【DAY14】
一歩を踏み出す日は、新しいアイデアの始まりの日
 問24「実行プランは何か」
 問25「最初に誰に動いてもらうか」
 問26「終わらない旅に出かける気持ちはあるか」

冒頭でも述べたが、短くて読みやすい。

合理性やツールありきでのアイデア本ではないため、何となく支えてもらっている安心感がある。

これはけっこう良い本なのかもしれない。

篠原信『思考の枠を超える 自分の「思い込み」の外にある「アイデア」を見つける方法』

丁寧に書かれているものの、なんか硬いな。

思い込みや経験からくる固定観念によって作られる思考の枠を、思惑にかけて「思枠」と表現しているところは面白かったが、これ自体、ちょっと硬いというか、頭でっかちというかね。もう少し自然体で思考の枠を超えていくことが必要なのかも。

青木亮作(TENT)『アイデアとかデザインとか』

治田将之と著者の青木亮作が2011年にTENTというクリエイティユニットを立ち上げたらしい。

プロダクトデザイナーのことは正直あまり知らないが、本書を読むと、何となく親近感が沸く。何となくね。

内容は……まあまあ。個人的には、もう少し方法論的なものが知りたかった気もする。

tent1000.com

大崎善生『将棋の子』

『聖の青春』を書いた元将棋雑誌編集者による、奨励会に挑み、そして敗れた人々にスポットライトを当てた傑作。

www.shogi.or.jp

ja.wikipedia.org

奨励会とは、プロ棋士養成機関である。東西に分かれてプロ志望者がしのぎを削り、非常に厳しい一部の人間だけがプロ棋士になれる、公正で公平で、そして厳正なトーナメントである。しかし年齢制限がある。一定の年齢に達するまでに奨励会を勝ち抜くことができなければ、もうプロになることはできない。倍率は高く、どうしても勝ち抜けず、敗れ去っていく者が大半だ。

そしてプロになってからも厳しい戦いは続く。

「将棋は厳しくはなく、その本質は優しいものなのである」

本書の終盤で出てくる言葉だが、この言葉をわたしは口が裂けても言えないだろう。なぜなら将棋とはどこまでも厳しいものだと思うからだ。運の要素がなく、引き分けもない。どこまでも1対1の勝負の結果だけが厳然と――奨励会も同じだ。どれだけ頑張っても、駆け抜けられる人間もいれば、プロになれない人間もいる。

著者は本当に、将棋の本質は「優しいもの」であると思っているのだろうか?

優しいものであってほしい、将棋に本気で関わった人が救われてほしい、幸せであってほしい、という祈りのようなものだとわたしは思った。

読みながら涙が止まらなかった。

そして熱いものが体中に流れ込んできた。

仕事を頑張ろう。

趣味を頑張ろう。

人生を頑張ろう。

頑張ることを頑張ろう。

近年はてな界隈で声高に主張される「努力できることもただの恵まれたギフトであり、全ては運に過ぎない」という究極の努力相対主義/運至上主義が、わたしは本当に大嫌いだ。この論調を是とすると、奨励会で涙を流した人たちは、ただ実力がなく、努力する才能もない不運な人々だということになる。イチローも松井秀喜も大谷翔平も中田ヒデも、ビジネスの最前線で働き成功している人たちも、世界を変える研究に没頭している人たちも、そして藤井聡太も、ただガチャに恵まれて環境面や努力を含むあらゆる才能があっただけの幸運な人間になる。

わたしは認めない。

全てを運に収斂させる方が、よほど残酷だ。そして実態と合っていない。

成功した研究者たちが何を言っても、またSNSで他人を批判するだけの人間が何を言っても、努力はその当人の意志と、努力できる工夫の賜物だ。

時代錯誤でも良い。わたしは頑張ることを頑張っていこうと思う。そして奮闘した人間をリスペクトし続けようと思う。