葦原一正『日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由』

若干愚痴っぽいが、「経験者は語る」の強さがある。語れる人がそもそも少ないんだよね、日本って。著者も語るように、スポーツビジネスは大抵「サラリーマン社長」が多い。また、知名度や注目度の割にビジネスの規模は小さくて、結果「失敗しないようにしよう」と前例踏襲主義になる――深く首肯せざるを得ない指摘である。

園田智昭『シェアードサービスの管理会計』

管理会計と書いてあるが、別段シェアードサービスの管理や経理処理に係る経理マンの細かな疑問に応えているよりは、シェアードサービスの位置づけによって、子会社化する or しない、外販する or しない、評価をどうする、といった問題が発生するため、そこをしっかり分析している本。

これまでに読んだ本の中ではわかりやすい。

帯についている「業務の集中化」→「業務の見直し」→「業務の標準化」というステップも、まず集中化するんだと違和感を感じる方もいるかもしれないが、このステップの順番だと今わたしが気にかけている論点を解決することができる。

安井望+町田慎一郎『導入ガイド グローバルシェアードサービス』

前段がシェアード(SSC)に係る考え方の整理。わたしはここが読みたくて買ったのだが、冒頭の数十ページという感じ。そのあと事例が100ページぐらいあって、本書の名前の通りグローバルシェアードサービスに特化した話。すなわち当時のデロイトが売りたかった商材の説明である。

冨浦英一『アウトソーシングの国際経済学 グローバル貿易の変貌と日本企業のミクロ・データ分析』

「第58回日経・経済図書文化賞」と「第55回エコノミスト賞」をダブル受賞しているらしいが、いざ読むと実際かなり面白い着眼点の本だと思う。アウトソーシング自体が現在(本書が出版された10年前において)グローバル化しているが、グローバルアウトソーシングが、各国の経済統計や企業統計にどのような影響を及ぼしているか、また企業の生産性や雇用、技能、ビジネス習慣、研究開発などにどのような影響を及ぼしているか、さらには国際貿易理論にどのようなアップデートがあるかなどを論じている。

正直、アウトソーシングに関するもっとベタな実務レベルの本を探しており(しかし見つからないので藁をも掴む思いで)本書を手に取ったのだが、うん、やはりわたしの問題意識は本書では満たされなかったというのが結論ではある。しかし本書のタイトルからもそこには大して期待をしていなかったし、本書の問題ではない。個人的には「第6章 研究開発とアウトソーシングの国境」はかなり興味深かった。これは学術書なので仕方ないが、正直もっと掘り下げて色々と論じてほしいと思ったし、わたし自身もっと色々と語りたいというか何というか。

あー。

この辺もっと語りたいし、語ってもらいたい。語り合いたい。

ダグラス・ブラウン+スコット・ウィルソン『戦略的BPO活用入門』

BPO/アウトソーシングについて定番書と呼べるものはほとんど、ないし全然ないと言って良いと思う。

しかしながら本書はわたしの同僚が複数名読んでおり、中身も類書に比べると圧倒的に網羅的であるなど、数少ない定番書の候補だと言える。

他の本に比べると圧倒的に網羅的に検討されているのだが、それでも「契約社会のアメリカっぽいなー」という感じがする。わたしがBPO/アウトソーシングにおいてまず大事なのは、やはり業務の切り分け(どんな業務をどんな観点で外出ししたり、内部で集約化したり、システム化したり、派遣やバイトに移したり、そのままにしたり、というのを決めるか?)だと思う。その観点はあまり重視されておらず、どちらかといえばBPOベンダーとの契約とか、SLA(サービス・レベル・アグリーメント)が重要とか、そういう観点が目につく。

BPOビジネス研究会『限界からのBPO戦略 人・プロセス・情報を最適化し、見えないコストに光を当てる』

NTTデータの人たち、特に主任とか課長代理の方々が書いている。社内勉強会の成果をまとめたということなのだろうか? 序章のタイトルが 「分業」と「BPO」 となっているなど、本質論から入るのは物凄く好きなので、かなり期待して買ったのだが、残念ながら分業論自体はあまり深堀りされていない。しかしBPOに取り組もうと思うと「暗黙知」を「形式知化」しないと外部に委託できないため、(逆説的に)「BPOが形式知化の原動力となる」という指摘は、わたしの問題意識とも合致しており、思わず頷いてしまった。

具体的な方法論は正直乏しいものの、モデルケースがあり、これはまあ頭の体操には良い。やっぱりケース1とケース3かな。

【ケース1】人件費を抑制しながら作業品質を上げるには?
      ――業務の分割とオフショアの活用
【ケース2】データを整理して、企業戦略に生かすには?
      ――クレンジングによってデータを「武器」にする
【ケース3】新規の業務を効率よくアウトソーシングするには?
      ――「丸投げ」によるトータルな業務設計
【ケース4】現場に活用してもらえるシステムを構築するには?
      ――データの収集、製品マスタ整備業務の一元化
【ケース5】人員配置を換えて人件費を下げるには?
      ――配置ロスの原因を探り、解決法を案出
【ケース6】作業効率と作業品質を両立させるには?
      ――ソリューションを活用し人員配置を最適化
【ケース7】本社と支社の間に生じたギャップを埋めるには?
      ――「現場」の意見を反映したルールづくり
【ケース8】システム間に生じたギャップを埋めるには?
      ――データ加工によるトラブル回避

なお本書のラストでは「KPO(ナレッジ・プロセス・アウトソーシング)」が提唱されているが、これはもうコンセプトとしてはありふれている。2011年の発売なので、2011年時点では新しかったのかもしれない。

高山隆司+佐藤俊幸『EC通販で勝つBPO活用術』

めちゃくちゃタイトルに偽りがある。

購買機能をいかにアウトソーシングしていくかという問題点から、BPO導入におけるノウハウを細かく解説しているのかと思ったが、全くBPOの話じゃない。単にDXっぽいサービスを活用していけば通販が楽になるというだけの話だ。その前提に立って読めばそこそこ面白かったのだが、BPOという言葉を拡大解釈し過ぎている。これはアウトソーシングとは思えない。

木滑和重『実践版 グローバルプロセスアウトソーシング 世界で勝つためのグローバル経営支援機能の構築』

最近アウトソーシングやBPOと呼ばれるジャンルの本をまとめて買ったり読んだりしており、これから大量に感想の記録jを書いていくことになると思うが、良い本がほとんど見当たらない。その中でも本書はまだマシだと思うので、あとで再読する。

なお、わたしが取り急ぎ最も読みたいのは、BPOにおける業務の仕分けの方法論やステップだ。これまで色々な業務改革などはやっているため、一定頭で整理することはできるのだが、BPOという「外部に切り出す」ことを含めた検討のステップとして何か重要な観点・判断軸が抜け落ちていないかをチェックしたいのである。しかしまともな検討例が書かれたものがほとんどない。BPOが重要だとか、上手く使えば役に立つというレベルの話は10年どころか15年前の時点ですらネットで十分に転がっているし、ネットすら見なくても筋道立てて考えれば普通わかるだろうと思う。でも、実際に本を買うと、その程度の整理で終わっているものが多いのだ。

その意味で本書も、厳密にはわたしの期待に応えた本ではないが、一応「例」はあった。

図表6-4 業務切り分けの判断例(本当は図なのだが、取り急ぎ文章で書く)

<直接業務>
差別化の源泉 →YES→ 自社リソース
 ↓
 No
 ↓
コスト優位の源泉 →YES→ EMS、ODM、OEM等の検討
 ↓
 No
 ↓
競争優位を支える支援業務 →YES→ 業務集約・BPO/SSCの検討

<間接業務>
戦略的意思決定機能 →YES→ 自社リソース
 ↓
 No
 ↓
高度な知識・スキルが必要 →YES→ 業務集約・CoEの検討
 ↓
 No
 ↓
定型化・集約化が可能 →YES→ 業務集約・BPO/SSCの検討
 ↓
 No
 ↓
自社リソース(ローカルスタッフ)

うーん。

書きながら改めて考えてみたが、正直「うーん」だな。

他のところはけっこう面白いことも書いてあるのだが。

ヘイミシュ・マクレイ『2050年の世界 見えない未来の考え方』

2050年の世界を予測した本。

技術やメガトレンド別の記述ではなく、地域別の記述だ。

日本の記述は、残念ながら、正しいだろう。

日本は良くも悪くも日本らしさを強める。清潔さやサービスといった一部の日本的な美徳は継続されるが、様々な問題は解決されないままだ。世界は日本に注目しなくなり、日本も世界に注目しなくなる。すなわち「内向き思考」が更に強まり、政府の財政問題はどこかで「デフォルト」と呼ばれる事態に陥る。

くっそつまんない社会だな。

でもこうなる気がする。

中川諒『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』

アイデアを出すための「工夫の4K」というフレームワークというものが紹介されている。

  • 改善:これってもっと〜できないかな?
  • 解決:どうやったら〜できるか?
  • 解消:そもそもこれって〜できないかな?
  • 回避:いっそのこと〜できないかな?

まあこれ自体は「ふーん」なのだが、これには続きがあり、工夫の「4K思考マップ」に発展する。

これが面白い。

理想の状態、今の良くない状態(問題)、問題を引き起こしている原因それぞれに、「解決」「改善」「解消」が当てはまるのである。

そしてこれらを「回避」するアプローチもある。

実際に使ってみたが、シンプルだけどわかりやすいフレームワークだと思う。

黒木亮『獅子のごとく(下)』

大手邦銀から巨大投資銀行に転じた国際金融マンの姿を描いたビジネス小説。

投資銀行や商社・ヘッジファンドなどにおける数千億円クラスの国際金融の戦いの現場を書かせると、おそらく日本で黒木亮を超える書き手は存在しないだろう。黒木亮自身が元々圧倒的な国際金融マンであるからだ。生半可な取材では絶対にここまで書けないと思う。

本書の主人公は、元々大学ラグビーで日本代表の手前まで行くほどで、体育会系なので勉強らしい勉強はそこまでしたことがなかった。しかし体育会系は文字通り体力があるし、やれと言われたことはガムシャラにやるし、上下関係なども身についているし、この手のネットワークは営業において重要であるため、昔から(特に昔は)大学の部活つながりは大手企業の入社にけっこう有益だったりする。この主人公もその伝手で大手邦銀に入社(正確には銀行なので入行)後、ひたむきに働いて頭角を現す。しかし自営業を営んでいた実家が、他ならぬ自分が勤務する銀行に見捨てられ、倒産し、持ち家なども全て取り上げられるという屈辱を味わう。その結果、勤務先に対して愛着どころか深い恨みのようなものを持ち、アメリカの巨大投資銀行で国際金融マンとしてのキャリアを歩み始めることになる。

本書は、企業名・個人名ともに実名と仮名が双方出てくる。虚実入り交じる感じで、読んでいてなかなか面白い。例えば、三井住之江銀行と仮名にされているが明らかに三井住友銀行だし、ライブドアや楽天は実名、堀江も三木谷も実名で登場する。物凄く大きな規模で戦いが繰り広げられているが、その戦いの個々のエピソードや背景は事実があったりして、読みながら「これは事実なのか?事実ベースのフィクションなのか?完全なフィクションなのか?」と、よくわからなくなってくる。しかしそれが良い。

黒木亮『獅子のごとく(上)』

上下巻に分冊されているため、感想は下巻でまとめて書く。

黒木亮は国際金融の経験値が半端なく、『トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て』や『アジアの隼(上)』『アジアの隼(下)』といった初期作品を読んだだけでも、他のビジネス小説の書き手とはレベルが違うとよくわかる。

incubator.hatenablog.com

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佐藤誠一郎『あなたの小説にはたくらみがない 超実践的創作講座』

文芸新潮で編集を40年やった業界の重鎮らしい。書名の「たくらみ」という言葉を聞くとテクニック論みたいなものを想像する方が多いと思うが、創作論や文章論のようなものはほとんど書かれていない。良くも悪くも心構えとか精神論みたいなのが多く、あえて書くと、うーん、「文芸論」とか「小説論」みたいなワードが近いかも。けど「わしの考える小説とは……」といったニュアンスを終始感じる。茶飲み話というか。酒を飲んでクダをまくじいさんというか。

あと、事例が古いんだよな。宮部みゆき、髙村薫、小池真理子――もちろん宮部みゆきも高村薫も凄いと思うし、面白くて、個人的にもいつかまとめて読もうと思っている。けれど、一昔前って感じ。新しければ良いってものではないし、わたし自身あまり新しい作家のことは知らないが、せめて2000年以降に出てきた作家で話してくれないかな。伊坂幸太郎とか、米澤穂信とか、小川一水とか。

環境省『令和5年版 環境白書』

令和5年版 環境白書

令和5年版 環境白書

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良くも悪くも白書。

めちゃくちゃ分量が多い。読み飛ばしモード全開でパラパラめくっていたのだが、それとも去年から半年近くかかった。

まあそれでも、これを読んだら環境問題や環境ビジネスに関する大きな流れをざっと掴むことができる。