インキュベ日記

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米澤穂信『真実の10メートル手前』

真実の10メートル手前

真実の10メートル手前

『さよなら妖精』『王とサーカス』に続き、太刀洗万智という人物が登場している。今回は短編集だが、なんというか、ハードボイルドというか、救いのない話というか、まあそんな感じのミステリが多い。

何となくラストが特徴的な気がした。本来小説終わるべき箇所(というか、よくある小説が終わる箇所)の少し前で、ブツンとスイッチが切られるように唐突に小説が終わっている感じがするんだよな。上手く言えないけど。

米澤穂信『王とサーカス』

王とサーカス

王とサーカス

『さよなら妖精』に続き、太刀洗万智という人物が登場している。『さよなら妖精』では彼女は高校生だったのだが、本書では既に大人になり、新聞記者を経てフリーのジャーナリストとして独立している。そして旅行事情の記事を書くためにネパールを訪れ、今なお謎多き史実である事件に遭遇する……というアウトラインである。

ネパール王族殺害事件 - Wikipedia

これも前作『さよなら妖精』のユーゴスラビア紛争と同様、極めて血生臭い事件であり、また個人の思惑を超えて、民族や国家といった大きなパワーが働いた事件である。つまり一人の人間がどうこうできる類の事件ではない。しかし太刀洗万智は望むと望まざるとに関わらず、深く巻き込まれていく。そして今回も、ヘビーである。

しかし面白い。

このミステリーが凄いとかで第1位になったらしいが、それも頷ける出来だ。

米澤穂信『さよなら妖精』

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

元々は古典部のシリーズものとして書いたようだが、色々あって古典部ではない形で出版することになったようだ。

その色々とは、作者的にはまさに「色々」なのだが、読者的に最も重要なのは、作品の持つトーンである。古典部シリーズは「日常の謎」をモチーフとした作品であり、高校生ならではの成長や葛藤・挫折などが描かれている。

一方、本書もやはり日本の高校生たちが主人公なのだが、高校生活ではなく、ユーゴスラビアの史実をモチーフとした作品である。

ユーゴスラビア紛争 - Wikipedia

ユーゴスラビア紛争では文字通り多くの血が流れた。皮肉にも当時のユーゴスラビアは殺し合いが「日常」だったわけだが、これはとてもじゃないが「日常の謎」とは言えない。詳細は実際に手に取って読んでほしいが、けっこうヘビーな作品である。わたしは文字通り頭を殴られるような衝撃を受けた。こう来るかー。

なお、本書のヒロイン(の一人)である太刀洗万智は、新聞記者やフリーのジャーナリストになっており、『王とサーカス』や『真実の10メートル手前』で主人公を務めている。すなわち本書は、太刀洗万智シリーズの前日譚と言って良いだろう。

冨田和成『営業』

営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて

営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて

野村證券で爆発的な成果を出し、その後フィンテック企業を創業した著者による2冊目の本。

1冊目が『鬼速PDCA』というPDCAに着目した愚直な本だったのだが、2冊目はさらに愚直に『営業』である。
incubator.hatenablog.com

しかし良い本だ。面白くはない。ないんだが、愚直だ。結局やるべきことを圧倒的な質と量で愚直にやる奴が大成功する。その冷厳たる事実に耐えられない弱い人間が裏技や魔法を求めるのだが、答えは結局「ここ」にしかない。

株式会社APMコンサルティング『決算書から読み解くビジネスモデル分析術』

決算書から読み解くビジネスモデル分析術 Excelによる財務データ分析と事業戦略への活用手法

決算書から読み解くビジネスモデル分析術 Excelによる財務データ分析と事業戦略への活用手法

Amazonのレビューでも書かれていたが、これはビジネスモデルの分析術と言うよりも単に決算書の分析術のような気がする。で、それで良いではないかと。タイトルに偽りありという気がする。

村上春樹+川上未映子『みみずくは黄昏に飛び立つ』

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る―

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る―

川上未映子がインタビュアーで村上春樹がインタビュイーの対談集というかインタビュー集。全4回に渡って、徹底的にインタビューしている。時期的に『騎士団長殺し』に関する記述が多いので、ネタバレを避けるためにも『騎士団長殺し』は読んでおいた方が良いだろう。
incubator.hatenablog.com
incubator.hatenablog.com

わたしにとってのポイント(興味深かった点)は4つ。

  1. 本当か嘘かわからないが、村上春樹は過去の本でも語っているとおり、いわゆる文学理論みたいなものはほとんど使わずに物語を書いている。
  2. これも本当か嘘かわからないが、村上春樹は過去の本の内容を病的なほどに忘れているというのが過去の対談集などでは明らかなのだが、本書でもやはり異常なほど過去の作品のことを覚えていない。というか、『騎士団長殺し』の秋川まりえの名前すら覚えていなかった。
  3. 過去の対談集だか何だかでも出てきたのだが、村上春樹は徹底的に「文体」にフォーカスする作家である。そして本書でも村上春樹は文体の重要性を繰り返し語っている。そして興味深いことに、川上未映子も文体に意識的な作家なのだが、『乳と卵』があまりにも文体で騒がれた、しかもそれが女性の身体性から出て来た文体であることを強調されすぎて、次作の『ヘブン』では文体を変更したらしい。なお村上春樹は、『乳と卵』は文体しか語るところがない、しかしそれは素晴らしい達成だと評している。
  4. 川上未映子はフェミニストである。少なくともそう自称した。

村上春樹『騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編』

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

村上春樹の最新長編。かなりの長編なのだが、一気に読んでしまった。

以降ネタバレ(核心というほどではないにせよ)。

この『騎士団長殺し』という作品は、昨日も書いたが、物語の仕掛けというか構造がこれまでの作品とよく似ているように思う。例えば、自分に都合の良いガールフレンドが出てくることや、得体の知れない存在が出てくることや、地下に潜って得体の知れない世界に行くこと。雨田の息子は何となく「鼠」や灰田を彷彿とさせる。しかし、では免色捗は一体どうなのかと問われると、あまりぴったり来るものがいない。現実離れした優雅な暮らしはギャツビーを思い出すが、彼はこれまでのどの登場人物とも違う複雑な内面を持っている。ある部分では、極めて禍々しいとさえ言えるだろう。しかし主人公に対して敵対しているかと言うと、そういうわけでもない。そして傍目には全てを手に入れているようにすら見える免色さんは、主人公の自由さを羨んでいる。何と言っても彼が圧倒的に気になる人物だな。