インキュベ日記

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村上春樹『若い読者のための短編小説案内』

若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)

若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)

昔読んで感想を書いたような気もするんだが、改めて検索すると見つからないので、再度読了の上、感想をつけることに。

本書は、村上春樹の読書観や小説観と大いに関わっている。村上春樹は元々、海外の小説は英語のままゴリゴリ読みまくっていたくせに、日本の小説を体系的に読むことをほとんどしてこなかった。そしてそのまま小説家になっていくわけだが、あるところで、まあそろそろ意地を張って日本の小説を意識的に回避するのはやめて、面白いと思うものは積極的・体系的に読んでみても良いのではないかというふうに頭のスイッチが切り替わる。

村上春樹が日本の小説の中で最も心惹かれたのが、第二次世界大戦後に文壇に登場した、いわゆる「第三の新人」と呼ばれている一連の作家たちである。安岡章太郎・小島信夫・吉行淳之介・庄野潤三・遠藤周作などが該当する。また、第三の新人には属さないけれどもその前後に登場した長谷川四郎・丸谷才一・吉田健一といった作家にも興味を抱く。そしてその頃、プリンストン大学に招かれて、週に1コマだけ大学院の授業を持たなくてはならなくなった村上春樹は、第三の新人および周辺の作家の間に何かしらの共通性があるのではないかという仮設を、大学院の授業におけるディカッションというかたちで、深め、また検証しようとする……そういう本である。

だから語り口がやや口語チックであるし、生徒役の発言も出て来る。

なお取り上げる作品は、有名な作品を半分、無名な作品を半分にしたそうだが、実はわたしは、第三の新人と呼ばれる作家たちの小説をほとんど読んだことがない。その意味では小説論が正しいかどうかはよくわからないまま、村上春樹の語り口を楽しんだ。

ベン・ホロウィッツ『HARD THINGS』

HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか

HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか

ラウドクラウドという会社を経営し、その後ベンチャーキャピタリストとして活動する著者の経営書。一言で書けば、経営に正解はない、ということであろう。かなり気に入った。

ラズロ・ボック『ワーク・ルールズ!』

ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える

ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える

グーグルの人事トップによる著書。

グーグルがここまで発展してきた理由は何か? 明白である。シンプルに、グーグルの検索エンジンがスマートだったことがその理由である。わたしは、初めてグーグルが話題になった頃のことが未だに忘れられない。ネット黎明期を知らない人には想像ができないかもしれないが、当時、検索エンジンは今のような形をしていなかった。今のように質の高いロボット検索ができずに、ディレクトリ型とかインデックス型とか呼ばれる形をしていたのである。すなわち、ヤフーなどは人力でサイトを分類・登録していたのだ。だから今で言うSEO的なものも、何はともあれヤフーに登録されるかどうかが第一段階で、ヤフーに「有力サイト」みたいな感じで特別扱いされたり、色々なところに載せてもらえることが第二段階だった。

そういうことを考えると、グーグルの人事と言われても、わかるような、わからないような……という感じではある。良い本ではあるのだが、一方で「良い企業に良い人事マネージャーを入社させ、良い施策を取り入れただけ」というようにも感じる。

アンドリュー・S・グローブ『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』

HIGH OUTPUT MANAGEMENT

HIGH OUTPUT MANAGEMENT

ハイ・アウトプット・マネジメント……シンプルである。アウトプットの総量と、時間当たりのアウトプット量すなわちアウトプットの質を、最大化させることが重要。

三枝匡『ザ・会社改造 340人からグローバル1万人企業へ』

ザ・会社改造--340人からグローバル1万人企業へ

ザ・会社改造--340人からグローバル1万人企業へ

待望の、というべきビジネス書にしてビジネス小説。

三枝匡はこれまで『戦略プロフェッショナル』『経営パワーの危機』『V字回復の経営』という3冊のビジネス小説を世に問うてきたが、これらは(コマツなど明白にわかるケースもあるものの)基本的に架空の物語である。

しかし本書は違う。三枝匡がキャリアの完成として選んだ、自身がCEOとして乗り込んだミスミの経営の実態をあるがままに書いたビジネスケースである。読んでいて、これまでの3冊に勝るとも劣らない熱量がある。

この4冊はバイブルだな。

戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

経営パワーの危機 会社再建の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

経営パワーの危機 会社再建の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

V字回復の経営 2年で会社を変えられますか 企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

V字回復の経営 2年で会社を変えられますか 企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

ザ・会社改造--340人からグローバル1万人企業へ

ザ・会社改造--340人からグローバル1万人企業へ

ケン・リュウ『紙の動物園』

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

「アジア趣味」と「非ハードSF」が二枚看板の新興SF作家。

Amazonのレビューに、

全体的にウェットな作風。ハードSFの対極とでもいうのだろうが、技術や設定にはあまりこだわりを見せず、SF的シチュエーションやガジェットを使いながら、気持ちにぐっとくる作品。

とあったが、わたしも同じ感想を持った。ぐっと来るんだよね。

冒頭に収録された表題作「紙の動物園」と、その次に収録された「もののあはれ」は、読みながら涙を流していて、何とも言えぬ読後感。特に「もののあはれ」は、これを中国系アメリカ人(11歳まで中国で暮らし、その後アメリカで生活しているそうだ)が書いたかーと驚いたが、何と著者は『ヨコハマ買い出し紀行』にインスパイアされてこれを書いたらしい。物語を否定するようなあの作品にインスパイアされること自体が、非ハリウッド的というか何というか。

奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』

ビビビ・ビ・バップ

ビビビ・ビ・バップ

SFとジャズの融合……と聞いただけで、かの傑作アニメ『カウボーイ・ビバップ』を思い出して即購入。結論としては「まあまあ」という印象。カウボーイ・ビバップの方が個人的には面白かったのだが、こっちの方が好きな人も多いだろう。

なお奥泉光は、文学理論や文体に強いこだわりを持っていることで知られ、本作でも冒頭から『吾輩は猫である』をモチーフに色々やっている。それはまだ良いのだが、文中の所々で、数ページから十ページ程度に一回は「そんなこんなで、フォギー(主人公の相性です)は○○なのでした」といった「です・ます調」の気持ち悪い俯瞰的文章が出て来るので、その度に作品世界に埋没していたわたしは無理やり現実世界に引き戻されてしまう。文体に強いこだわりを持つ作者のことだから、これも狙いなのだろうが、わたしにとってはこの狙いは端的に「不要」だなーと思った。